≪偏微分の順番≫
まず、偏微分の順番を考えるにあたって、 二変数関数
が連続微分可能であるということについて復習してみると、これは、一変数関数のときと全く同様に、次のように考えることができる。
いま、
上の勝手な点
に対して、X方向の偏微分係数
が存在するとする。すると、それぞれの点
に対して、
を対応させることにより、
という関数が得られる。これを、関数
のX方向の一階偏導関数と呼ぶ。同様にして、Y方向の一階偏導関数
が定義できる。
さらに、これらの一階偏導関数
が存在して、それぞれ
上の
連続関数となるときに、関数
を一階連続微分可能な関数とか、
(連続を、英語で「continuous」)級の関数とか呼ぶ。
同様に, 勝手な自然数
に対して, n 階までの偏導関数
などが、すべて存在して、
上の連続関数になるときに、関数
を n 階連続微分可能な関数とか、略して
級の関数とか呼ぶ。また、何度でも偏微分でき、、すべての導関数が
上の連続関数になるときに、関数
を 滑らかな関数とか、略して
級の関数とか呼ぶ。
いま、二変数関数
の2階偏微分の偏導関数について考えてみます。
二変数関数
の2階偏微分の偏導関数は、
……(1_1)
……(1_2)
……(1_3)
……(1_4)
と、書き表わすことができる。
(1_1) は、「X軸方向に動いたときの関数
の値の変化率」のX軸方向への更なる変化率を、(1_4) は、「Y軸方向に動いたときの関数
の値の変化率」のY軸方向への更なる変化率を表わしている。これらは、容易にイメージすることができる。さらに、(1_2) は、「X軸方向に動いたときの関数
の値の変化率」のY軸方向へのブレの変化率を、(1_3) は、「Y軸方向に動いたときの関数
の値の変化率」のX軸方向へのブレの変化率を表わしている。したがって、これらは、「概念としては異なるもの」であることに注意。
例えば、次のような関数が与えられているとする。
すると、
における偏微分は、
一方、、
の場合は、
というように、「式一発で書けている」ので、偏微分は
したがって、
となることが分かる。
そこで、二階偏導関数を求めてみると、
となり、
となることが分かる。一般には、こういうことが起こり得る。
ところで、皆さんは、「関数
級の関数ならば」
…… (A)
「が成立する」ということを、習う(か、習った)かもしれない。
しかし、上で見たように、(A) 式は、単に「偏微分可能である」ということから自動的に従う性質ではなくて、「関数
級である」、すなわち偏導関数が連続関数である、ということを要求している。
「関数 級の関数ならば、 が成り立つ」
いま、
を、勝手にひとつ取ってくると、偏導関数の定義より、
…… (2)
さらに、勝手な実数
に対して、
…… (3)
と、それぞれ表わすことができる。
すると、(2)式の右辺の分子の各項は、(3)式より
したがって、(2)式の右辺の分子は、
そこで、
…… (4)
とすると、
…… (5)
よって、(2)式、(4)式より
…… (6)
と、表わせることが分かる。
全く同様に考えると、
…… (7)
と、表わすことができる。
さて、いま、
という、一変数関数を補助的に考えると、(4)式は
と、表わすことができる。すると、「
平均値の定理」より
「平均値の定理」は、関数
が閉区間[
] で連続、開区間(
) で微分可能ならば、
となる
が少なくとも一つ存在する。
いま、
より
と置き換えると、「平均値の定理」は、関数
が閉区間[
] で連続、開区間(
) で微分可能ならば、
となる
が少なくとも一つ存在する、となる。
(
隠す)
ところで、
したがって、
…… (8_1)
さらに、
とおくと、(8_1)式は
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より
となるので、
ところで、
したがって、
…… (8_2)
一方、(4)式は
と置くことにより
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より
となるので、
と表わすことができる。ところで
したがって、
…… (9_1)
いま、
と置くことにより、(9_1)式の{}の中は
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より
となるので、
と表わすことができる。ところで
したがって、
…… (9_2)
以上、みてきたように、(4)式は、(8_2)(9_2)式の2通りに書き表わすことができる。
ところで、任意の
に対して、それぞれに対応する
が存在することになるが、
と評価できることに注意すると、
となることが分かる。
したがって、
…… (10)
という極限がどうなるのかということを考えてみると、(6)式、(9_2)式より
…… (11)
同様に、(7)式、(8_2)式より
…… (12)
いま、(10)式では、
という極限を考えているのに対して、(11)、(12)式では、
、あるいは、
という極限を考えていることに注意。すなわち、(10)式では、hk平面上で近づき方は指定せずに、ともかく、点
が原点(0,0)に近づく状況を考えているのに対して、(11)、(12)式では、特別な仕方で、点
が原点(0,0)に近づく状況を考えている。特に、
という順番で、点
を点(0,0)に近づけることを考えると、(11)式より
という表示が得られ、
という順番で、点
を点(0,0)に近づけることを考えると、(12)式より
という表示が得られるが、もちろん、これら二つの表示は同じ極限の値を表わしているわけだから、
…… (13)
が成り立つ。
ところで、(13)式は、
上の勝手な点
に対して成立するので、
上の関数として、
…… (A)
となることが分かる。これは、「ヤング*の定理」として知られている。
すると、例えば、
級の関数である場合、(A)式の両辺を
について偏微分してみると、
…… (13)
また、
級の関数
に対して (A)式を適用したのだと考えてみると
…… (14)
となることが分かる。したがって、(13),(14)式より
このことは、「偏導関数は微分をする変数の順番に依らない」 ということを表わしている。
つまり、関数に複数回の偏微分を施す場合、偏微分する順序は問題でなく、
に関して何回ずつ偏微分したのかだけを考慮すればよい、ということである。
すなわち、
について r 回、
について (n-r) 回偏微分した場合、その結果を
と書き表わして、
の n 階の偏導関数という。
* William Henry Young(ウィリアム・ヘンリー・ヤング)1863年10月20日–1942年7月7日イギリスの数学者
「ヤングの実験」のヤングは Thomas Young, 1773年6月13日 - 1829年5月10日、イギリスの物理学者。
<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>
(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
余録・バーゼル問題とテーラー展開