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補論・偏微分(2) ヤングの定理

≪偏微分の順番≫

まず、偏微分の順番を考えるにあたって、 二変数関数 f:R2R が連続微分可能であるということについて復習してみると、これは、一変数関数のときと全く同様に、次のように考えることができる。
いま、R2 上の勝手な点 (x,y)R2 に対して、X方向の偏微分係数 fx(x,y) が存在するとする。すると、それぞれの点 (x,y)R2 に対して、 fx(x,y) を対応させることにより、
fx: R2R
という関数が得られる。これを、関数 f(x,y) のX方向の一階偏導関数と呼ぶ。同様にして、Y方向の一階偏導関数
fy: R2R
が定義できる。
さらに、これらの一階偏導関数 fx,fy が存在して、それぞれ  R2 上の連続関数となるときに、関数 f(x,y) を一階連続微分可能な関数とか、C1 (連続を、英語で「continuous」)級の関数とか呼ぶ。
同様に, 勝手な自然数 nN に対して, n 階までの偏導関数 f,fx,fy,⋯,nfxn ,⋯, nf xyn-1 , nfyn などが、すべて存在して、 R2 上の連続関数になるときに、関数 f(x,y) を n 階連続微分可能な関数とか、略して Cn 級の関数とか呼ぶ。また、何度でも偏微分でき、、すべての導関数が R2 上の連続関数になるときに、関数 f(x,y) を 滑らかな関数とか、略して C 級の関数とか呼ぶ。

いま、二変数関数 f(x,y)∈R2 の2階偏微分の偏導関数について考えてみます。
二変数関数 f(x,y) の2階偏微分の偏導関数は、

2fx2 = x(fx)    ……(1_1)
2fyx = y(fx)    ……(1_2)
2fxy = x(fy)    ……(1_3)
2fy2 = y(fy)    ……(1_4)
と、書き表わすことができる。
(1_1) は、「X軸方向に動いたときの関数 f(x,y) の値の変化率」のX軸方向への更なる変化率を、(1_4) は、「Y軸方向に動いたときの関数 f(x,y) の値の変化率」のY軸方向への更なる変化率を表わしている。これらは、容易にイメージすることができる。さらに、(1_2) は、「X軸方向に動いたときの関数 f(x,y) の値の変化率」のY軸方向へのブレの変化率を、(1_3) は、「Y軸方向に動いたときの関数 f(x,y) の値の変化率」のX軸方向へのブレの変化率を表わしている。したがって、これらは、「概念としては異なるもの」であることに注意。

例えば、次のような関数が与えられているとする。
f⁡(x,y)= x3yx2+y2   (x,y)≠(0,0) 0    (x,y)=(0,0)
すると、(x,y)=(0.0) における偏微分は、

fx (0,0)= lim h0 f(h,0)-f(0,0)    h    
  = lim h0 0-0  h   =0


fy (0,0)= lim h0 f(0,h)-f(0,0)   h ;   
  = lim h0 0-0  h   =0
一方、、(x,y)≠(0.0) の場合は、
f⁡(x,y)= x3yx2+y2
というように、「式一発で書けている」ので、偏微分は

fx⁡(x,y)= 3x2y(x2+y2)-2x·x3y     (x2+y2)2     
  = x2y(x2+3y2)   (x2+y2)2  

fy⁡(x,y)= x3(x2+y2)-2y·x3y     (x2+y2)2     
  = x3(x2-y2)   (x2+y2)2  
したがって、
fx⁡(x,y)= x2y(x2+3y2)   (x2+y2)2     (x,y)≠(0,0) 0    (x,y)=(0,0)
fy⁡(x,y)= x3(x2-y2)   (x2+y2)2     (x,y)≠(0,0) 0    (x,y)=(0,0)
となることが分かる。
そこで、二階偏導関数を求めてみると、

2fxy(0,0) = lim h0 fy (h,0)-fy (0,0⁡)    h     

   = lim h0 h5h4 -0  h  = lim h0 h-0 h=1

2fyx(0,0) = lim h0 fx (0,h)-fx (0,0⁡)    h     
   = lim h0 0h4 -0  h  = lim h0 0-0 h=0
となり、

2fxy(0,0) 2fyx(0,0)
となることが分かる。一般には、こういうことが起こり得る。

ところで、皆さんは、「関数 f⁡(x,y) が C2 級の関数ならば」

2fxy= 2fyx    …… (A)
「が成立する」ということを、習う(か、習った)かもしれない。
しかし、上で見たように、(A) 式は、単に「偏微分可能である」ということから自動的に従う性質ではなくて、「関数 f⁡(x,y) が C2 級である」、すなわち偏導関数が連続関数である、ということを要求している。

「関数 f⁡(x,y) が C2 級の関数ならば、 2fxy= 2fyx  が成り立つ」

いま、(x0,y0)∈R2 を、勝手にひとつ取ってくると、偏導関数の定義より、

2fxy⁡(x0,y0)= lim h0 fy (x0+h,y0)- fy (x0,y0⁡) h    …… (2)
さらに、勝手な実数 xR に対して、

fy⁡(x,y0)= lim k0 f(x,y0+k)-f(x,y0) k    …… (3)
と、それぞれ表わすことができる。 すると、(2)式の右辺の分子の各項は、(3)式より

fy (x0+h,y0)= lim k0 f(x0+h,y0+k)-f(x0+h,y0) k

fy (x0,y0)= lim k0 f(x0,y0+k)-f(x0,y0) k
したがって、(2)式の右辺の分子は、

fy (x0+h,y0)- fy (x0,y0⁡)
= lim k0 { f(x0+h,y0+k)-f(x0+h,y0) k - f(x0,y0+k)-f(x0,y0) k }
そこで、

Δ(h,k)= f(x0+h,y0+k)-f(x0+h,y0)
- f(x0,y0+k)+f(x0,y0)    …… (4)
とすると、

fy (x0+h,y0)- fy (x0,y0⁡)= lim k0 Δ(h,k) k    …… (5)
よって、(2)式、(4)式より

2fxy⁡(x0,y0)= lim h0 lim k0 Δ(h,k) hk    …… (6)
と、表わせることが分かる。
全く同様に考えると、

2fyx⁡(x0,y0)= lim k0 lim h0 Δ(h,k) hk    …… (7)
と、表わすことができる。

さて、いま、

g1(x)= f(x,y0+k)-f(x,y0)
という、一変数関数を補助的に考えると、(4)式は

Δ(h,k)= g1(x0+h)-g1(x0)
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より

Δ(h,k)= g1' (x0+θ1h)h
(0<θ1<1)


「平均値の定理」は、関数 f が閉区間[a,b] で連続、開区間(a,b) で微分可能ならば、

f(b)-f(a) b-a  = f'⁡(c⁡) (a<c<b)

となる c が少なくとも一つ存在する。
いま、a<c<b より

c=a+θh (h=b-a, 0<θ<1)

と置き換えると、「平均値の定理」は、関数 f が閉区間[a,b] で連続、開区間(a,b) で微分可能ならば、

f(b)-f(a) = f'(a+θh)h

となる θ が少なくとも一つ存在する、となる。
隠す
ところで、

g1'(x)= ddx g1(x)
= x { f(x,y0+k)-f(x,y0)}
したがって、

Δ⁡(h,k)= { fx (x0+θ1h,y0+k) -fx(x0+θ1h,y0) }h    …… (8_1)
さらに、

g2(y)= fx (x0+θ1h,y)
とおくと、(8_1)式は

Δ⁡(h,k)={ g2(y0+k)-g2(y0)⁡}h
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より

g2(y0+k)-g2(y0)⁡= g2' (y0+θ2k)k
(0<θ2<1)
となるので、

Δ⁡(h,k)={ g2' (y0+θ2k)k⁡}h
ところで、

g2'(y)= ddy g2(y)
= y⁡{ fx (x0+θ1h,y)}
したがって、

Δ⁡(h,k)= {y fx (x0+θ1h,y0+θ2k)k}h    …… (8_2)


一方、(4)式は

φ1(y)= f(x0+h,y)-f(x0,y)
と置くことにより

Δ⁡(h,k)= φ1(y0+k)- φ1(y0)
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より

φ1(y0+k)-φ1(y0)⁡= φ1' (y0+λ1k)k
(0<λ1<1)
となるので、

Δ⁡(h,k)= φ1' (y0+λ1k)k
と表わすことができる。ところで

φ1'(y)= ddy φ1(y)
= y{ f(x0+h,y)-f(x0,y)}
したがって、

Δ⁡(h,k)= {fy (x0+h,y0+λ1k)- fy (x0,y0+λ1k)}k    …… (9_1)
いま、

φ2(x)= fy (x,y0+λ1k)
と置くことにより、(9_1)式の{}の中は

Δ⁡(h,k)= φ2(x0+h)- φ2(x0)
と、表わすことができる。すると、「平均値の定理」より

φ2(x0+h)-φ2(x0)⁡= φ2' (x0+λ2h)h
(0<λ2<1)
となるので、

Δ⁡(h,k)={ φ2' (x0+λ2h)h}k
と表わすことができる。ところで

φ2'(x)= ddx φ2(x)
= x fy (x,y0+λ1k)
したがって、

Δ⁡(h,k)= {x fy (x0+λ2h,y0+λ1k)h}k    …… (9_2)


以上、みてきたように、(4)式は、(8_2)(9_2)式の2通りに書き表わすことができる。
ところで、任意の h,kR に対して、それぞれに対応する θ1,θ2,λ1,λ2 が存在することになるが、|h|>|θh|, |λh| |k|>|θk|, |λk| と評価できることに注意すると、

h0 のとき θh0, λh0
k0 のとき θk0, λk0
となることが分かる。
したがって、

lim (h,k)(0,0) Δ(h,k) hk    …… (10)
という極限がどうなるのかということを考えてみると、(6)式、(9_2)式より

lim (h,k)(0,0) Δ(h,k) hk
= lim h0 lim k0 Δ(h,k) hk
= lim h0 lim k0 x fy (x0+λ2h,y0+λ1k)
= 2fxy⁡(x0,y0⁡)    …… (11)

同様に、(7)式、(8_2)式より

lim (h,k)(0,0) Δ(h,k) hk
= lim k0 lim h0 Δ(h,k) hk
= lim k0 lim h0 y fx (x0+θ2h,y0+θ1k)
= 2fyx⁡(x0,y0⁡)    …… (12)


いま、(10)式では、lim(h,k)→(0,0) という極限を考えているのに対して、(11)、(12)式では、limh0limk0、あるいは、limk0limh0 という極限を考えていることに注意。すなわち、(10)式では、hk平面上で近づき方は指定せずに、ともかく、点 (h,k)R2 が原点(0,0)に近づく状況を考えているのに対して、(11)、(12)式では、特別な仕方で、点 (h,k)R2 が原点(0,0)に近づく状況を考えている。特に、limh0limk0 という順番で、点 (h,k) を点(0,0)に近づけることを考えると、(11)式より

lim (h,k)(0,0) Δ(h,k) hk = 2fxy⁡(x0,y0⁡)
という表示が得られ、limk0limh0 という順番で、点 (h,k) を点(0,0)に近づけることを考えると、(12)式より

lim (h,k)(0,0) Δ(h,k) hk = 2fyx⁡(x0,y0⁡)
という表示が得られるが、もちろん、これら二つの表示は同じ極限の値を表わしているわけだから、

2fxy⁡(x0,y0⁡) = 2fyx⁡(x0,y0⁡)    …… (13)
が成り立つ。
ところで、(13)式は、R2 上の勝手な点 (x0,y0)∈R2 に対して成立するので、R2 上の関数として、

2fxy= 2fyx    …… (A)

となることが分かる。これは、「ヤング*の定理」として知られている。

すると、例えば、f(x,y) が C3 級の関数である場合、(A)式の両辺を x について偏微分してみると、

3fx2y= 3fxyx    …… (13)


また、f の代わりに C2 級の関数 fx に対して (A)式を適用したのだと考えてみると

3fxyx= 3fyx2    …… (14)

となることが分かる。したがって、(13),(14)式より

3fx2y= 3fxyx =3fyx2

このことは、「偏導関数は微分をする変数の順番に依らない」 ということを表わしている。
つまり、関数に複数回の偏微分を施す場合、偏微分する順序は問題でなく、x と y に関して何回ずつ偏微分したのかだけを考慮すればよい、ということである。 すなわち、f(x,y) を x について r 回、y について (n-r) 回偏微分した場合、その結果を

nf(x,y)xryn-r (r=0,1,2,…,n)

と書き表わして、f(x,y) の n 階の偏導関数という。
* William Henry Young(ウィリアム・ヘンリー・ヤング)1863年10月20日–1942年7月7日イギリスの数学者
「ヤングの実験」のヤングは Thomas Young, 1773年6月13日 - 1829年5月10日、イギリスの物理学者。

<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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