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剰余項の考察

≪剰余項を積分に関する平均値の定理で考察する≫

勝手にひとつ与えられた滑らかな関数 f(x) に対して f(x)
f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 + f'''(0)3!x3 +⋯+ f(n)(0)n!xn +⋯
というように「次数が無限大の多項式の姿」に「化ける」かどうか、を確かめるためには
f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 + f'''(0)3!x3 +⋯+ f(n)(0)n!xn + Rn(x)  ……(1)
というように「有限次の多項式の姿」に「化かした」ときに現われる剰余項
Rn(x) = 1n! 0x (x-t)n f(n+1)(t)dt  ……(2)
の大きさを評価する必要があった。
すなわち
lim n |Rn(x)| =0
に収束するときTaylor展開可能であった。
この剰余項 Rn(x) を「積分に関する平均値の定理」から考察する。

いま
g(t) = f(n+1) (t)
h(t) = (x-t)n
とすると
0x h(t) g(t) dt = 0x (x-t)n f(n+1) (t) dt
これを(2)式を用いて表わすと

0x h(t) g(t) dt = n!· Rn(x)
と書き表わすことができる。
一方、

0x h(t) dt = 0x (x-t)n dt

 = [ 1n+1· (-1) (x-t)n+1 ]0x

 = 1n+1 xn+1 = xn+1n+1
したがって、x>0 のとき、積分区間  [0,x] 上での関数 f(n+1)(t) の「重み付き平均値」 A は

A= 0x h(t) g(t) dt 0x h(t) dt
 = n!· Rn(x) · n+1xn+1
 = (n+1)!xn+1 Rn(x)

また、x<0  のときには、h(x) のままでは n が奇数の場合、積分区間 [x,0] 上で h(x)0 となってしまうので、h(x) の代わりに -h(x)=(x)=(t-x)n を「重み」関数と考える。

(x) = (-1)n (x-t)n = (-1)n h(t)

したがって、「重み付き平均値」 A は

A= x0 (t) g(t) dt x0 (t) dt

= x0 (-1)n h(t) g(t) dt x0 (-1)n h(t) dt

= - 0x h(t) g(t) dt - 0x h(t) dt
 = (n+1)!xn+1 Rn(x)


よって、いずれの場合にも x0 のとき、関数 f(n+1)(t) の「重み付き平均値」 A は

A= (n+1)!xn+1 Rn(x)
と表わせる。
一方、「積分に関する平均値の定理」から

f(n+1)(θ)=A
となる実数 θ が 0 と x の間に存在する。
ゆえに

f(n+1)(θ) = (n+1)!xn+1 Rn(x)
より
Rn(x) = f(n+1)(θ) (n+1)! xn+1


以上から、滑らかな関数 f:RR に対して、実数 xR を勝手にひとつ取ってきたときに

f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 +⋯+ f(n)(0)n!  xn + f(n+1)(θ) (n+1)!   xn+1  ……(3)
となるような実数 θ が 0 と x の間に存在することが分かった。

ところで、(3)式を「次数が無限大の多項式の姿」

f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 +⋯+ f(n)(0)n!  xn + f(n+1)(0)(n+1)!   xn+1 +⋯  ……(4)
と比べてみると f(n+1)(t) の値を考える点を 0 でなく 0 と x の間にある θ に取り替えることによって

f(n+1)(0)(n+1)!xn+1 +⋯  ≈⇒  f(n+1)(θ)  (n+1)! xn+1  ……(5)
というように、(4)式の右辺に現われる x に関して(n+1)次式以上の「無限和」の部分をただひとつの項 f(n+1)(θ)(n+1)!xn+1 で「肩代わり」することができる、ということを(3)式は主張していることが分かる。
∗ 注意 ∗
(3)式の等号は勝手な実数 xR に対して成り立つのに対し、(4)式の等号は考えている x の値によって(f(x)=11-x でみたように ) 成り立ったり成り立たなかったりすることに注意。
したがって 、

f(n+1)(0)  (n+1)!   xn+1 +⋯  = f(n+1)(θ)(n+1)!     xn+1
  という等号が成り立つ、ということでなく、(5)式のような置き替えを行なうことによって実際に等号を成り立たせることができる、ということ。

ところで、(3)式において、とくに n=0 の場合を考えると

f(x) = f(0) + f(θ)' x

f(θ)' = f(x) - f(0)    x     ……(6)
この場合、Taylorの定理は(6)式が成り立つような実数 θ が 0 と x の間に存在する、ということを主張する。これは、平均値の定理に他ならない。すなわち、平均値の定理とはTaylorの定理の n=0 の場合である、と解釈することができる。

<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(3)部分積分とテーラーの定理
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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