バーゼル数の収束値は?
1644年に ピエトロ・メンゴリによって提起された、分子が1で分母が自然数のべき乗の形をした分数を無限に足し合わせる「無限級数」の和(これを仮にバーゼル数と呼ぶ)を求める問題、微分学を作り出したライプニッツでさえ解けなかったこの問題は、その後継者であるベルヌーイ兄弟に託された。しかし、2よりも小さい数値に収束することを突き止めるのがやっとで、ベルヌーイ兄弟はその真なる値にたどり着くことはできずにいた。いつしかこの問題は、ベルヌーイ兄弟の住む町バーゼルにちなんで「バーゼル問題」と呼ばれるようになった。そして弟ヨハン・ベルヌーイ (1667-1748)が数学教授を努めるバーゼル大学に入学してきたのが若き日のレオンハルト・オイラー(1707-1783)である。オイラーは1735年、「この級数の和を6倍したものが直径1の円の円周の平方に等しい」ことを発見し、終止符を打つことになる。
いま、愚直な老数学教授が三角関数sin xのグラフを書いて、マクローリン展開した式を板書してsin x はこのようにかくこともできる、ということを説明している。
……(1)
すると、生徒の一人が
「教授、グラフを見ると sin x は零点を持つから、普通の関数のように”因数分解”できるんですか?」
教授 「そうだ!いい質問だね」
そういって、教授は板書をはじめた。
教授 「しかし、これでは(1)式との関連性が見えないな?一工夫して、
まず()のなかが
でゼロになるから、と!」
教授 「これで
の係数は 1 だし、
の係数は、と!」
教授 「ほほ!、
の係数は!」
これが、(1)式の に等しいはずだから
すると、
……(2)
「これは、大発見じゃ!」
教授 「諸君、バーゼル数は、
になる」
そう言って、
黒板に板書すると、老教授は意気揚々と教室を後にした。
一方、隣の教室では、若き青年教師オイラが、「分子が1で分母が自然数のべき乗の形をした分数を無限に足し合わせるといくつなるか」、を生徒たちに問うていた。
生徒 「先生、”塵も積もれば山となる” で無限に大きくなるんじゃないですか?」
オイラ先生 「それじゃあ、実際 15 まで計算してみるか」
したがって、
5 までの和は 1.463611111
10 までの和は 1.549767731
15 までの和は 1.580440283
オイラ先生 「確かに少しずつではあるが増えている。しかしこの数はけっして
2 を超えることはない。」
そう言って、オイラ先生は板書を始めた。
オイラ先生 「バーゼル数は正項級数だから、たし算する項を増やせば和も大きくなる。しかし、2を超えることはない。すなわち、「収束する」ということだ。」
しかし、項を増やしていっても和は少しずつしか大きくならない、いったいどこまで足せば収束値が見えてくるのか?このままの計算を続けていては・・・ だんだん手計算で行うこと自体困難になってきた。
オイラ先生 「仕方がない。Excelのマクロを使ってパソコンで計算してみよう。」
(下記のマクロを組み込んで、セルに「=BAZERU(計算する項数)」と打ち込んでみよう)
Function BAZERU(n As Long) As Double
Dim z As Double, k As Long
For k = 1 To n
z = z + k ^ -2
Next k
BAZERU = z
End Function
「=BAZERU(10)」===1.549767731
「=BAZERU(50)」===1.625132734
「=BAZERU(100)」===1.6349839
「=BAZERU(150)」===1.638289573
「=BAZERU(500)」===1.642936066
「=BAZERU(1000)」===1.643934567
「=BAZERU(5000)」===1.644734087
「=BAZERU(10000)」===1.644834072
「=BAZERU(30000)」===1.644900734
「=BAZERU(50000)」===1.644914067
「=BAZERU(100000)」===1.644924067
オイラ先生 「ダメだ!正攻法ではパソコンもお手上げだ!ほかの方法を考えるしかない!」
そこで、オイラ先生は最初から考え直すことにした。微分、積分、自然対数LOG ・・・・・・すると、ある考えが浮かんだ!
オイラ先生 「そういえば、自然対数関数LOGのテーラー(マクローリン)展開に自然数がでていたな~」
確か、
オイラ先生 「ウ~ン、これを積分すると」
オイラ先生 「ヨ~し、バーゼル数の影が出てきたな」
これを、0 から 1/2 まで定積分すると
オイラ先生 「ところで、LOG の積分は部分積分を利用して」
オイラ先生 「いま、
と置換すると」
オイラ先生 「やっと! みつけたぞ~!」
オイラ先生 「よ~し、早速、計算してみよう」
オイラ先生 「そうか!バーゼル数は 1.644934・・・ に”収束”するのか!」
バーゼル問題には二つの側面があった。
ひとつには、バーゼル数を数としてその精密な数値を求めることである。バーゼル数は収束が甚だしく緩慢で、100,000 項までの和でも 1.6449240・・・にしかならない。まともに足したのでは一生かかってもその収束値を予想することもできないであろう。兄ヤコブ・ベルヌーイ(1654-1705)をはじめいろんな人たちが、その精密な数値を求めるべく格闘した。Euler も新たな加速法を模索、そしてついに到達した。その数値は、1.644934・・・。
そこで、Euler は新たな問題にぶつかる。バーゼル数 1.644934・・・ は単なる計算数値か、それとも、何か特別な”意味のある”数値なのか、という問いである。
そして、「巨人」Euler は気づくのである。「全ク思ヒガケズ、・・・円積問題ニ関係スル」と。
当時でも π に関する計算はいろんな方面ですすめられていた。 しかし、数値としての 1.644934 が、π の平方を因数として含むなどとは、数値 1.644934 をどう弄っても出てこない。Euler の「巨人」たる所以である。
余談ではあるが、このブログを書きながら、ふと以前に書いたケプラーが楕円軌道を発見するきっかけとなった場面を思い出す。
≪ケプラーはいかにして火星の楕円軌道を発見したか≫
「値が100429であること を見たとき、まるで新たな光のもと、・・・」
ある数値を寝ても覚めても考えていると、まるで天啓のようにある考えが浮かぶ、「数というもののなしうる業か!」