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補論・偏微分(1)

≪偏微分係数≫

2変数関数 f(x,y) に対して、y=y0R を勝手にひとつ固定して f(x,y) から

g(x)= f(x,y0)
という1変数の関数を作るとき、g(x) の x=x0 での微分係数

g⁡(x0)= lim h0 g(x0+h)-g(x0)    h    
のことを関数 f(x,y) の (x,y)=(x0,y0) における x 方向の偏微分係数と呼び、その値を  fx(x0,y0) と表わす。これを(補助的に考えた g(x) という関数を持ち出さずに)関数 f(x,y) だけを用いて表わせば、

fx⁡(x0,y0)= lim h0 f⁡(x0+h, y0)-f(x0, y0)      h         ……(1)
となる。すなわち、X方向の偏微分係数とは、「X方向に動いたときの関数 f(x,y) の値の変化率」を表わしている。 Y方向の偏微分係数についても全く同様である。したがって、X方向の偏微分 fx を求めたい場合は、変数 y を単なる定数と思って, 変数 x に関する普通の微分を計算すればよいから、計算自体はそれほど難しいことではない。
それでは、これは幾何学的には何を意味しているのだろうか?

ところで、一変数関数 f(x) は幾何学的には、変数 x に対応した点の位置を表わす「X 軸の方向」とは別に、「高さ」を表わす「Y 軸の方向」も考えて、 XY 平面上で X 軸上の点 x の上に「高さ」f(x) の点を考えて、x を色々と動かしたときに、こうした点( x,f(x))∈R2 を集めてできる平面 R2 内の図形

Γf={(x,f(x))∈R2|xR⁡}
が、一変数関数 f(x) のグラフで、一般には一変数関数 f(x) のグラフ Γf は一本の曲線になるとは限らないが、f(x) が連続関数の場合には、一変数関数 f(x) のグラフ Γf を, 一本の繋がった曲線としてイメージすることができる。

同様のことを、二変数関数 f(x,y) に対して考えると、変数 (x,y) に対応した点の位置を表わす「XY 平面」とは別に、「高さ」を表わす「Z 軸の方向」も考えて、XYZ 空間上で、XY 平面上の点(x,y) の上に、「高さ」 f(x,y) の点を考えて、(x,y) をいろいろと動かしたときに、こうした点 (x,y,f(x,y))R3 を集めてできる空間 R3 内の図形

Γf={(x,y,f(x,y))∈R3|(x,y)∈R2⁡}
が二変数関数 f(x,y) のグラフということになる。一般には、二変数関数のグラフは、空間 R3 内の複雑な図形になり得るが、f(x,y) が連続関数の場合には、二変数関数のグラフ Γf を、一枚の繋がった曲面としてイメージすることができる。

そこで、勝手な点 p0=(x0,y0)∈R2 を通り、 v=(a,b)∈R2 方向を向いた直線を l ,また点 (x0,y0,f(x0,y0))∈R3 を通り、Z軸と平行な直線を L として、直線 l と直線 L を含む平面を H とする。 このとき、平面 H 上には z=f(x,y) のグラフの切り口である曲線 C が現われるが、この曲線 C が平面 H 上でどのように表わされるのか、ということを考えてみる。
そこで、いま、

c(t)=p0+tv
  =( x0+ta, y0+tb)  ……(2)
という式によって直線 l 上の点 c(t) を定めることにする。すると(2)式によって、直線 l 上の点は、t というパラメータを用いてパラメータ付けされることになるが、点 c(t) の上には「高さ」 f(c(t)) のところに、曲線 C 上の点が存在することになる。したがって、このパラメータ付けに関して 平面 H 上で曲線 C

g(t)= f(c(t))
  =f( x0+ta, y0+tb)
という一変数関数のづラフであると解釈することができる。

ここで、点 (x0,y0)R2 は、パラメータ t=0 に対応するから、、点 (x0,y0)R2 における、 v=(a,b)∈R2 方向の接線の傾きは

g'⁡(0)= lim h0 g⁡(h)-g⁡(0)    h     
  = lim h0 f⁡(c(t))-f⁡(c(0)⁡)    h     
  = lim h0 f(x0+ha, y0+hb)- f(x0, y0)       h            ……(3)
という式で与えられる。

さて、(3)式の極限値を関数 f(x,y) の偏微分を用いて表わしたいが、偏微分というのは、X 軸や Y 軸に平行な方向の値の変化しか表わせないから、(3)式の分子を、f(x0, y0+hb) という値を仲立ちとして、

f(x0+ha, y0+hb)- f(x0, y0)
  = {f(x0+ha , y0+hb)- f(x0, y0+hb)}
   + {f(x0, y0+hb)- f(x0, y0)}
と書き直して考えてみると、(3)式は
lim h0 f(x0+ha, y0+hb)- f(x0, y0)       h          
  = lim h0 f(x0+ha, y0+hb)- f(x0,y0+hb)       h           
   + lim h0 f(x0, y0+hb)- f(x0,y0)      h           ……(4)
と書き表わせる。そこでさらに、

Δx=ha Δy=hb
とすると

f(x0+ha, y0+hb)- f(x0,y0+hb)       h           
 = f(x0+ha, y0+hb)- f(x0,y0+hb)       ha            ·a
 = f(x0+Δx, y0+Δy)- f(x0,y0+Δy)       Δx             ·a  ……(5)


f(x0, y0+hb)- f(x0,y0)      h         
 = f(x0, y0+hb)- f(x0,y0)      hb          ·b
 = f(x0, y0+Δy)- f(x0,y0)      Δy          ·b  ……(6)
と表わすことができる。
いま、(6)では、変数 x の部分が x=x0 と「ひとつ定まった値に固定されている」こと、h0 のとき Δy0 となること、に注意すると、(6)から(4)式の右辺の第2項は

lim h0 f(x0, y0+hb)- f(x0, y0)      h         
 = lim h0 f(x0, y0+Δy)- f(x0, y0)      Δy          ·b
 = lim Δy0 f(x0,  y0+Δy)- f(x0,y0)      Δy          ·b
 = fy ⁡(x0, y0 b
となることが分かる。

一方、(5)の方でも変数 y の部分が、y=y0+Δy と「ひとつの定まった値に固定されているように見える」ことと、h0 のとき Δx0 となること、に注意すると、同様にして

lim h0 f(x0+ha,  y0+hb)- f(x0, y0+hb)       h           
 = lim h0 f(x0+Δx,  y0+Δy)- f(x0, y0+Δy)       Δx             ·a  ……(7)
 = fx ⁡(x0, y0 a  ……(8)
となることが予想される。

ただし、この場合には(6)の場合と違って「固定されているように見える」 y=y0+Δy は、実際には h と共に動いているから(8)式の「等号が成り立つ」と断言するには(7)式の極限を検討する必要がある。
そこで、いま、(7)式の分子の大きさを見積もるために、取りあえず h もひとつの値が定まった「定数」と考えて

φ(x)=f(x, y0+Δy)  ……(9)
という一変数の関数 φ(x) を補助的に考えてみる。すると(7)式の分子は

f(x0+Δx,  y0+Δy)- f(x0, y0+Δy)
 = φ(x0+Δx)-φ(x0)  ……(10)
と表わすことができる。
そこで、φ(x0+Δx)-φ(x0) という値を「平均値の定理」を用いて表わすと

φ(x0+Δx)-φ(x0) = φ(θ)' ·Δx  ……(11)
と表わせるような実数 θR が、x0 と x0+Δx の間に存在する(参照 補論・ロルの定理)。

いま、、y0+Δy は単なる「定数」であることに注意すると、(9)式から

φ(x)' = fx ⁡(x, y0+Δy⁡)
と表わせるから
(10)式、(11)式と合わせて

f(x0+Δx,  y0+Δy)- f(x0, y0+Δy)       Δx            

 = φ(x0+Δx)- φ(x0)     Δx          
 = φ(θ)'

 = fx ⁡(θ, y0+Δy⁡)
と表わせる。

ところで、 h の値を定数として考えてきたが、それぞれの実数 h R に対して、上の検討を行うことを考えると、補助的に考えた(9)式で与えられる関数 φ(x) は、一般には h が違うと異なる関数になるから φ(x) ではなく、 φh(x) などと表わすことにすれば、それぞれの実数 hR に応じて「異なる関数」と意味が表現できることになる。また、それぞれの関数 φh(x) に対して(11)式を成り立たせるような θ の値も、一般には h と共に変わり得るから θh と表わすとすると

f(x0+Δx,  y0+Δy)- f(x0, y0+Δy)       Δx            

 = fx ⁡(θh, y0+Δy⁡)  ……(12)
となる実数 θhR が x0 と x0+Δx の間に存在する。

ところで、
|θh-x0| ≤|Δx|=|ha|=|h|·|a| |Δy|=|hb|=|h|·|b|  ……(13)
と評価できることに注意。
いま、微分する方向 v=(a,b)∈R2 は勝手にひとつ固定して考えているので、(13)式より、 h0 のとき
|θh-x0|→0 |(y0+Δy)-y0|=|Δy|→0
したがって、
⁡(θh, y0+Δy⁡) ⁡(x0, y0⁡)  ……(14)
となる。
そこで、「fx⁡(x, y⁡) という関数の連続性」を用いると、結局(12)、(14)式から

lim h0 f(x0+Δx,  y0+Δy)- f(x0, y0+Δy)       Δx            

 = lim h0 fx ⁡(θh, y0+Δy⁡)
 = lim ⁡(θh, y0+Δy⁡) ⁡(x0, y0⁡) fx ⁡(θh, y0+Δy⁡)

 = lim h0 fx ⁡(x0, y0⁡)
となるから(8)式の等号が成り立つ。

以上から、C1 級の関数 f(x,y) に対して、(x,y)=(x0,y0) における v=(a,b)∈R2 という方向の接線の傾きは
lim h0 f(x0+ha, y0+hb)- f(x0, y0)       h          
  = fx ⁡(x0, y0 a+ fy ⁡(x0, y0 b  ……(15)
という式で与えられる。

そこで、いま、|h|≪1 であるとして(15)式を

f(x0+ha, y0+hb)- f(x0, y0)       h          

  ≒ fx ⁡(x0, y0 a+ fy ⁡(x0, y0 b  ……(16)
さらに、(16)式の両辺に h を掛けて ⁡(ha, hb)=⁡(Δx, Δy) として書き直すと

f(x0+ha, y0+hb)- f(x0, y0)       h          

  ≒ fx ⁡(x0, y0 ⁡)Δx+ fy ⁡(x0, y0 ⁡)Δy  ……(17)
いま、(17)式は、『(x0,y0)∈R2 から u=(Δx,Δy)∈R2 だけ離れると、関数 f(x,y) の値は第一近似で 
fx ⁡(x0, y0 ⁡)Δx+ fy ⁡(x0, y0 ⁡)Δy
だけ増える』ということを表わしている。
そこで、象徴的に

df = fx ⁡(x0, y0 ⁡)dx+ fy ⁡(x0, y0 ⁡)dy  ……(18)
と表わすこともできる。
そして、このことは、(x0,y0)∈R2 という点において、v=(a,b)∈R2 方向の接線はすべて

z- f⁡(x0,y0⁡) = fx ⁡(x0,y0 )(x-x0)+ fy ⁡(x0,y0 )(y-y0⁡)  ……(19)
という式によって定まる平面に乗っている、ということを意味している。

ところで、z=f(x,y) のグラフ上の点 (x0,y0,f⁡(x0,y0 ))R3 からのズレを表わすベクトル w

w= (x-x0,y-y0,z-f⁡(x0,y0⁡))
として

n0= (- fx ⁡(x0, y0 ),- fy ⁡(x0, y0 ),1)  ……(20)
とすると、(19)式は R3 上の内積を用いて <n0·w>=0  という形に表わすことができるから、(19)式により定まる平面は、点 (x0,y0,f⁡(x0,y0 ))R3 を通り(20)式で与えられるベクトル n0 に直交するような平面であることが分かる。
以上から、C1 級の関数  f(x,y) のグラフには接平面が描けること、また、点 (x0,y0,f⁡(x0,y0 ))R3 における接平面の方程式は(19)式で求めることができる。
例えば、

f(x,y)= x2+y2
とすると
fx (x,y)=2x fy (x,y)=2y
となるから、(x0,y0)=(0,0) での接平面の方程式は z=0
また、(x0,y0)=(1,2) での接平面の方程式は

z-5=2(x-1)+4(y-2)
となる。

<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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