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テーラーの定理

≪部分積分とテーラーの定理≫

一般の滑らかな関数 f(x) に対して「おつりの項」をつけて「次数が有限の多項式の姿」に「化かす」ことができるか、について考える。
そのための基本的なアイデアは、微積分学の基本定理である
0x f(t)'dt = f(x) - f(0)
という式に注目する。すると
f(x) = f(0) + 0x f(t)'dt
という形に表わされる。

この微積分学の基本定理をTaylor展開の第一近似を与える式である、と解釈してみると、式の第2項に現われる積分を何らかの方法で書き直すことによって、さらに f(x) を「1次の多項式」に「化かす」ことができるのではないか、と推測される。
ここで「部分積分」することを考えてみよう。
その場合、慌てて 1=ddt(t) と考えてしまわないということが大切である。すなわち、微分して「1」になる関数は「t」だけでなく、勝手な実数 CR に対して t+C という関数もそのような関数になることに要注意。
そこで慎重を期して
1= ddt {(t+C)}
と考えて部分積分してみると
f(x)= f(0)+ 0x f(t)' dt

= f(0)+ 0x ddt (t+C)· f(t)' dt

= f(0)+ [(t+C)f(t)']0x- 0x (t+C)· f(t)'' dt

= f(0)+ (x+C) f(x)'- Cf(0)'- 0x (t+C)· f(t)'' dt
いま、xR は変数ではなく勝手にひとつ固定した定数である、と考えて考察していることに注意すると C=-x と取ることにより、余計な (x+C)f(x)' という項が 0 になって

f(x)= f(0)+ f(0)'x- 0x (t-x)· f(t)'' dt  ……(1)
同様に

(t-x)· f(t)'' = ddt {(t-x)22}f(t)''   として

0x (t-x)· f(t)'' dt= 0x ddt {(t-x)22}f(t)'' dt

= [(t-x)22f(t)'' ]0x - 0x {(t-x)22}f(t)''' dt

= -x22f(0)'' - 120x (t-x)2f(t)''' dt  ……(2)
(2)を(1)に代入することで

f(x)= f(0)+ f(0)'x +x22f(0)'' + 120x (t-x)2f(t)''' dt  ……(3)
を得る。
さらに、
(t-x)2f(t)''' = ddt {(t-x)33}f(t)'''   として

0x (t-x)2f(t)''' dt= 0x ddt {(t-x)33}f(t)''' dt

= [(t-x)33f(t)''' ]0x - 0x {(t-x)33}f(t)'''' dt

= x33f(0)''' - 130x (t-x)3f(t)'''' dt  ……(4)
(4)を(3)に代入することで

f(x)= f(0)+ f(0)'x +x22f(0)'' + x32·3f(0)''' - 12·30x (t-x)f(t)'''' dt  ……(5)
を得る。
一般に

f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 + f'''(0)3!x3 +⋯+ f(n)(0)n!xn
  + (-1)nn! 0x (t-x)n f(n+1(t)dt  ……(6)
こうして、基本的には微積分学の基本定理だけを用いて、一般の滑らかな関数 f(x) を「おつりの項」を付けて「n次の多項式の姿」に「化かす」ことができる、ということが分かった。
このように、一般の滑らかな関数 f(x) を「おつりの項」を付けて「n次の多項式の姿」に「化かす」ことができる、という事実を「Taylorの定理」という。

そこで、(6)式の右辺に現われる多項式
Pn(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 + f'''(0)3!x3 +⋯+ f(n)(0)n!xn
この多項式 Pn(x)Taylor多項式と呼ぶ。

いま、「Taylorの定理」に現われる剰余項を
(-1)nn! 0x (t-x)n f(n+1(t)dt
1n! 0x (x-t)n f(n+1(t)dt
として
Rn(x)= 1n! 0x (x-t)n f(n+1(t)dt
とすると、(6)式は
Pn(x) -f(x) =- Rn(x)
と書き直せることが分かる。
よって
lim n |Pn(x) -f(x)| = lim n |Rn(x)|
すなわち
lim n Pn(x) =f(x) lim n |Rn(x)| =0
したがって、勝手にひとつ与えられた滑らかな関数 f(x) に対して、 f(x) が「次数が無限大の多項式の姿」に「化ける」かどうかは、lim n |Rn(x)| =0  となるかどうかにかかっている。

ところで、普通、積分が説明されるずっと前にTaylorの定理の説明が出てくる。そのために、Taylorの定理の説明も積分表示を避ける形で「平均値の定理」を用いて説明されることが多い。「平均値の定理」を用いた説明は、結果が分かった上でより簡単なすっきりした証明を与えようとして出てきたものと言える。
Taylorの定理に関して剰余項を「平均値の定理」を用いて与えるのか、もしくは積分表示として与えるのか、ということが大切なことなのでなく、剰余項の表示がどのようなものであれ「それがどのような大きさの数なのか、自分できちんと評価できる表示をもっている」ということが重要である。

<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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