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近似の多項式

≪近似多項式としてのTaylor展開≫

先ず、「近似の良さ」について考えてみよう。
いま、勝手にひとつ与えられた R 上の関数 f(x) に対して、二つの多項式 P(x),Q(x) が見つかって
| f(x)- P(x)|≤ 11000 ·|x|  ……(1)
| f(x)- Q(x)|≤ 1000·|x|2  ……(2)
という評価式が成り立つと仮定してみる。
このとき, 二つの多項式 P(x),Q(x) のうち、どちらの方が関数 f(x) をより良く近似しているか、を考えてみよう。
まず、x=1 の場合
| f(1)- P(1)|≤ 11000
| f(1)- Q(1)|≤ 1000
すると、f(1) と P(1) の誤差は 0.001 以下だから, 例えば, 繰り上がりや繰り下がりがないとすると、f(1) と P(1) は少なくとも小数点以下 2 桁まで一致しているような数であると言えるのに対して、f(1) と P(1) の誤差は 1000 以下であるとしか言えない。この場合には,P(x) の方が Q(x) よりずっと良い近似を与えていると考えられる。
次に、、x=1106 を代入してみると
| f⁡(1106 )- P⁡(1106 )|≤ 1109
| f⁡(1106 )- Q⁡(1106 )|≤ 1109
今度は、P(x) も Q(x) も同程度の近似を与えていると考えられる。
そこで、さらに 110100  を代入してみると
| f⁡(110100 )- P⁡(110100 )|≤ 110103
| f⁡(110100  )- Q⁡(110100  )|≤ 110197
となるから, 誤差の大きさに 100 桁近い開きが現われ、Q(x) の方が P(x) より圧倒的に良い近似を与えることが分かる。

以上みたように、(1)式,(2)式という評価式があったときに、P(x) と Q(x) という二つの多項式のうち、どちらが関数 f(x) のより良い近似を与えているのかということは、どのような実数 xR を考えているのかということに依存するということと、x が非常に小さい数である場合には Q(x) の方が圧倒的に良い近似を与えるということが分かる。

そこで、より一般に、C1,C2Rk,mN として
| f(x)- P(x)|≤ C1·|x|k
| f(x)- Q(x)|≤ C2·|x|m
という評価式が成り立つとすると、全く同様に考えると、x1 という状況だけを問題にしている場合には、正の定数 C1,C2 の大きさがどんなものであれ、「近似の良さ」は |x| のベキである k,m の大小関係に依存し、k<m なら Q(x) の方がより良い近似を与え、、k>m なら P(x) の方がより良い近似を与えることになる。また, この「近似の良さ」は、x が 0 に近い数であればあるほど相手を圧倒することも分かる。

勝手な滑らかな関数 f(x) と勝手な自然数 nN に対して「次元が有限な多項式の姿」に「化かす」と
f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 + f'''(0)3!x3 +⋯+ f(n)(0)n!xn + Rn(x)  ……(3)

Rn(x) = 1n! 0x (x-t)n f(n+1(t)dt  ……(4)
という式が成り立つ。
また、剰余項 Rn(x) は「積分に関する平均値の定理」より
Rn(x) = f(n+1)(θ)(n+1)!  xn+1
となるような実数 θR が 0 と x の間に存在する。

いま、(3)式の右辺に現われる Taylor多項式を Pn(x) と表わすとすると 
f(x) = Pn(x)+ f(n+1)(θ)(n+1)!  xn+1  ……(5)
となるような実数 θR が 0 と x の間に存在する。
そこで、いま、区間 [-1,1] における関数 |f(n+1)(x)| の最大値を
Mn= max x[-1,1] ⁡|f(n+1) ⁡(x)|
とする。
このとき、|x|1 であるとすると θ は
|θ||x|1
となることに注意すると、 θ[-1,1] となることが分かる。よって、このような実数 x と θ に対しては
⁡|f(n+1) ⁡(θ)|Mn  ……(6)
したがって、(5)式と(6)式から |x|1 に対して

⁡|f(x) - Pn(x)⁡|= |f(n+1)(θ)|(n+1)!   · |x|n+1
  ≤ Mn(n+1)!  · |x|n+1
という評価式が成り立つ。
これより n が大きくなるほど、|x| のベキも大きくなるから、n を大きくしていくほど近似の精度が上がる、と言える。そこで、『 Taylor多項式の考察』と併せて考えてみると、Taylor多項式 Pn(x) は f(x)-Pn(x) ができるだけ大きな x のベキで括れるようなものとして選ばれているのではないかと推測される。
したがって、「近似の良さ」を考えると、関数 f(x) の Taylor多項式 Pn(x) は n 次多項式の中で「|x|1 のときに、関数 f(x) を最も良く近似する多項式」、あるいは「|x|1 のときに、関数 f(x) に最も良く姿が似ている多項式」である、といえる。

<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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