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補論・ロルの定理

≪平均値の定理による証明≫

「Taylor の定理」に関して、その剰余項を「平均値の定理」を用いて説明されることが多い。それは、積分が説明されるずっと前に Taylor の定理の説明が出てくるために、積分表示を避ける形で説明されるのであろう。しかし、「平均値の定理」を用いた説明は、結果が分かったうえで、より簡単なすっきりした証明を考えようとして出てきたものである、と言える。したがって、そのまま理解するには多少無理なところがあるかもしれない。ともあれ、剰余項の証明、表示にいろいろあるとしても「それがどのような大きさの数なのか、自分できちんと評価できる表示をもっている」ということが重要である。

ところで、「平均値の定理」による証明は「ロルの定理」を立脚点にしている。
「ロルの定理」とは
有界閉区間 [a, b] 上で定義された連続関数 ƒ(x) が開区間 (a, b) で微分可能であり f(a) = f(b) を満たすとき、導関数 ƒ′(x) は、開区間 (a, b) 上に零点を持つ。 すなわち、 ƒ′(c) = 0を満たす c ∈ (a, b) が存在する。
c の位置を具体的に特定する定理ではない。また、c は1つとは限らない。条件を満たす c が1個以上存在するということを保証する存在定理である。(wiki)
そこで、「ロルの定理」を足掛かりに「平均値の定理」による剰余項について考えてみよう。

滑らかな関数 f: RR  として  xR を勝手にひとつ取ってきた場合(x は変数でなく、ひとつ固定された具体的な数として)、「ロルの定理」より、関数 f(t)
f(0)=f(x) ⇒ f(θ)'=0 となる θ が  0  と x の間に存在する
すなわち、「関数 f(t) を、有界閉区間 [ 0,x ] に制限して考えるとき, もし,t=0 ; t=x という端点で f(t) の値が等しければ, 関数 f(t) は最大値, あるいは, 最小値のいずれかを端点とは異なる点で取るはずで、そこで、そうした点(のひとつ) を t=θ とすれば、f'(θ)=0 となるはずである」ということ、を意味している。
ところで、一般の滑らかな関数 f: RR に対しては、ロルの定理の仮定である f(0)=f(x) という条件が満たされるとは限らない。 そこで、端点の値が等しくなるように、関数 f(t) を一次関数を用いて「引きずり下ろす(上げる)」という細工をする。

いま、A,BR として

F(t) =f(t) -(At+B)
という関数を考えてみる。
このとき、F(0)=F(x) となるためには

A= f(x)-f(0)  x   
また、B は条件から任意の数で良いから、B=0 とすると

F(t) =f(t)- f(x)-f(0)  x    ·t  ……(1)
という関数を考えることになる。 すると、F(0)=F(x) となるから、「ロルの定理」より

F(θ)' =0  ……(2)
となる実数 θR  が 0 と x の間に存在することになる。
今の場合、(1)式の微分は

F(t)' =f(t)' - f(x)-f(0)  x     ……(3)
となるから、(2),(3)式より、滑らかな関数 f: RR と実数 xR に対して

f(x)-f(0)  x    =f(θ)'  ……(4)
となる実数 θR  が 0 と x の間に存在する。
ここで、(4)式の左辺

f(x)-f(0)  x   
という値は、(0,f(0)),(x,f(x))R2 という平面上の二点を通る直線の傾きのことだから、閉区間上での関数 f(t) のグラフの「平均的な傾き」であると考えられる。「平均値の定理」とは、「そうした平均的な傾きを実際の接線の傾きとして与えるような点 θR  が 0 と x の間にに少なくともひとつは存在する」ということを主張しているわけで、このことが「平均値の定理」と呼ばれる所以である。

さて、「ロルの定理」を用いて、Taylor 展開の剰余項に対する簡明な表示を得るためにはどうしたら良いのかということを考えてみる。
「部分積分とテーラーの定理」では、微積分学の基本定理である
0x f(t)'dt = f(x) - f(0)
という式に注目して
f(x) = f(0) + 0x f(t)'dt  ……(5)
という形に書き直して、これを「Taylor 展開の第一近似」を与える式であると見なした。
そこで、(4)式も
f(x) = f(0) + f(θ)'x  ……(6)
というように、書き直してみると、何やら「Taylor 展開の第一近似」を与えるような「姿」に見える。そして、実際にこちらの平均値の定理にもとづいた議論で Taylor の定理が説明されることが多い。
(5)式の微積分学の基本定理を出発点とする議論では、「部分積分を繰り返す」ということが近似を上げるためのアイデアであるのに対して、(6)式を出発点とする議論では、「ロルの定理を適用する上手い関数を考える」ということが近似を上げるためのアイデアとなっている。そのため、新たな関数を定義して議論されることになる。しかし、そこが分かりにくい点のひとつとなっている。

まず、「Taylor の定理」は

f(x)= f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 +⋯+ f(n)(0)n!xn +Rn  ……(7)
したがって Rn は

Rn= f(x)-{ f(0)+ f(0)'x + f''(0)2!x2 +⋯+ f(n)(0)n!xn⁡}
という表示を持つわけだが、「平均値の定理」による説明は、「ロルの定理を用いて、これとは異なる表示を得ることを目論む」ことになる。
そこで、「平均値の定理」による証明をみてみよう。

<平均値の定理による証明>
まず、「 Taylor の定理」 閉区間 [a,b] 上 n 回微分可能な関数 f(x) について

f(b)= f(a)+ (b-a)f(a)' + (b-a)2 2!f''(a)
  +⋯+ (b-a)n-1  (n-1)! f(n-1)(a) +Rn
とおくとき

Rn= (b-a)n n! fn(c)
となる c が a<c<b に存在する。

<証明>

g(x)= f(x)+ (b-a)f(x)' + (b-x)2 2!f''(x)
  +⋯+ (b-x)n-1  (n-1)! f(n-1)(x) +A(b-x)n  ……(s_1)
とおく。ただし、A は定数で g(a)=g(b) となるように選ぶ。
すると、「ロルの定理」から g(c)'=0 となる a<c<b が存在する。そこで、g(x)' は
g(x)'= (b-x)n-1  (n-1)! f(n)(x) -nA(b-x)n-1  ……(s_2)
なので
f(n)(c)  (n-1)!  -nA=0  ……(s_3)
一方、、g(a)=g(b)=f(b) なので

f(b)= f(a)+ (b-a)f(a)' + (b-a)2 2!f''(a)
  +⋯+ (b-a)n-1  (n-1)! f(n-1)(a) +A(b-a)n  ……(s_4)
したがって、(s_3),(s-4)式より

Rn= (b-a)n n! fn(c)
を得る。
となるが、(s_1)式のような g(x) を思いつくのはなかなかできないし、証明中も何をやっているのかが見にくいところがある。そこで、そのあたりを考えてみよう。

いま、関数 f(t) が、勝手な点 aR のまわりで Taylor 展開できたとする。すると、(9) a のまわりでのテーラー展開 で見たように、関数 f(t)t=a のまわりで 

f(t)= f(a)+ f(a)'(t-a) + f''(a)2! (t-a)2
  +⋯+ f(n)(a) n! (t-a)n +⋯  ……(8)
という形に「化ける」はずである。
いま、(8)式の右辺を見ると複雑な形で a が現われてはいるが、(8) 式の左辺である f(t) にはどこにも a が現われていないから、結局、(8) 式の右辺も全体としては a によらない関数であるということに注意。このことは、特に、(8) 式の右辺を a で微分してみると、上手く各項が打ち消しあって 0 になるということを意味している。(*)
ところで、(7)式は(8)式において、t=xa=0 としたものに「ほぼ等しい」わけだから、(8)式をヒントに考察してみることにする。このとき、大切なアイデアは、 a=0 とおいて t の関数として考察するのではなく t=x とおいて a の関数として考察する、ということ。(いま、x  はひとつ固定された定数だと考えて議論を進めていることに注意)

そこで、t=x として
F(a)= f(x)-{ f(a)+ f(a)'(x-a) +⋯
  + f(n)(a)  (n)! (x-a)n +Rn·(x-a)mx-m⁡}
という関数( f(x) と a のまわり での差)を考えてみる。
ただし、ここで
F(0)= F(x)= 0
という形でロルの定理の仮定を成り立たせるために、「Rn を Rn·(x-a)mx-m に取り替える」という「細工」をする。このように、「t の関数」ではなく、「a の関数」を考えることによって、F(a)'
F(a)'= f(n+1)(a)   (n)!  (x-a)n
  + Rn·m(x-a)m-1x-m  ……(9)
というように簡明な形になることに注意。(*)
すると、いま、F(0)=F(x)=0 だから、ロルの定理によって、
F(θ)'= 0  ……(10)
となる実数 θR  が 0 と x の間に存在することが分かる。
したがって、(9),(10)式より

Rn= f(n+1)(θ)   m·n!  (x-θ)n-(m-1)xm
という表示が得られるが、特に m=n+1 と選んでやれば

Rn= f(n+1)(θ)   (n+1)!  (x-θ)xn+1
という簡明な表示が得られることが分かる。
(*)  (8)式の微分(有限の場合)

⁡{f(a)+ f(a)'(t-a) + f''(a)2! (t-a)2
  +⋯+ f(n)(a)  (n)! (t-a)n ⁡}'
=⁡{f(a)⁡}'+ ⁡{f(a)'(t-a)⁡}' + ⁡{f''(a)2! (t-a)2⁡}'+⋯
=f(a)'- f(a)'+ f(a)''(t-a) - f(a)''(t-a) +f'''(a)2! (t-a)2 -⋯
  - f(n)(a)  (n-1)! (t-a)n-1 + f(n+1)(a)   n!  (t-a)n
(有限で最後の項だけが残る)


<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(2)テーラー展開の注意点
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・偏微分(1)偏導関数
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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