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テーラー展開(2)

≪テーラー展開の注意点≫

f(x)= 11-x  ……(1) の Taylor展開を考える。
そこで(1)式を「多項式の姿」に「化かす」ことを考えてみると、
f(x)'= (11-x)'= {(1-x)-1}'
  =-1·(1-x)-2·(1-x)'= (1-x)-2
f(x)''= {(1-x)-2}' =-2·(1-x)-3·(1-x)'= 2(1-x)-3
以下同様に
f(k)(x) =k!(1-x)-(k+1)
よって、 f(k)(0) =k!
ak= f(k)(0)k! =k!k!=1
したがって、関数 f(x)= 11-x が多項式の姿に「化ける」としたら
11-x = 1+x+x2+x3+x4+  ……(2)
という姿に「化ける」のが一番もっともらしい、ということが分かる。

但し、上での議論は「化ける」べき「多項式の姿」に「当たり」をつけただけであり、関数 f(x)= 11-x が実際に(2)式のような「多項式の姿」に「化ける」ということを示したわけではないことに注意。
そこで多項式ではない関数 f(x)= 11-x が(2)式のように「多項式の姿」に「化ける」などという都合の良いことが本当にあるのか?ということを、考えてみよう。
いま(2)式の右辺が「無限和」であることは、とりあえず気にしないことにして(2)式の両辺に (1-x) を掛け算してみる
(1-x)(1+x+x2+x3+⋯⋯)
=(1+x+x2+x3+⋯⋯) -(x+x2+x3+⋯⋯)
=1    ……(3)
となりそうだから、確かに(2)式が成り立っていそうである。
すなわち(1)式のような多項式ではない関数も「多項式の姿」に「化け」そうなことが分かる。
ところが(2)式の両辺に x=2 を代入すると
-1=1+2+22+23+⋯⋯
となり、明らかに正しくない式が得られてしまう。

そこで慎重を期して、今度は「有限和」の形で考えてみると(3)式に対応する等式は nN を勝手にひとつ取ってきた自然数として
(1-x)(1+x+x2+⋯⋯+xn)
=(1+x+x2+⋯⋯+xn) -(x+x2+⋯⋯+xn+xn+1)
=1-xn+1
両辺を (1-x) で割り算して適当に移項すると
11-x=1+x+x2+⋯⋯+xn+xn+11-x    ……(4)
この(4)式は勝手な実数 x1R に対して常に成り立つ等式であることに注意します。

いま、n=0,1,2,3, に対して(4)式を順番に書き下すと

11-x=1+ x1-x

11-x=1+ x+x21-x

11-x=1+ x+x2+x31-x


11-x=1+ x+x2+x3++xn+xn+11-x

というように、関数 f(x)= 11-x が段々と「多項式の姿」に「化けて」いく様子が分かる。この操作を続けてゆくとき

lim n xn+11-x =0    ……(5)

となることが確かめられたとすると、(4)式の両辺で n を考えることにより、このような実数 x に対して(2)式が成り立つことが分かる。

そこで、次に(5)式が成り立つような実数  xR の条件を考える。
いま、勝手にひとつ与えられた実数 x1R に対して

lim n xn+11-x =11-x lim n xn+1

lim n xn+11-x =0 lim n xn+1 =0

また
|x|n+1 = |xn+1| = |xn+1-0|
と考えて
|x|n+1 を 「xn+1 と 0 との間の距離」である、と解釈すると(いわゆる収束半径)
lim n xn+1 =0 lim n |x|n+1 =0
(左側では xn+1 が 0 に近づく、右側では xn+1 と 0 との間の距離が 0 に近づく、と解釈している)
このとき
lim n |x|n+1 = 0 |x|<1 1 |x|=1 |x|>1
したがって
lim n |x|n+1 =0 |x|<1
となる。
以上の考察より(4)式の右辺に現われる「おつりの項」を無視することができるのは、|x|<1 のときだけである。したがって、(2)式の等式が成り立つのは、|x|<1 のときだけである、ことが分かる。

一般の関数 f(x) に対するTaylor展開を考えたとき、どのような実数 xR に対して
f(x) = f(0)+f(0)'x+f''(0)2!x2+f'''(0)3!x3+
という等式が成り立つのか、ということは、きちんと考えなければならない問題である。また、そのとき(2)式のように、いきなり「次数が無限大の多項式の姿」に「化か」して考えるのではなく、(4)式のように「有限和」で考えるほうがより理解できる、のではないだろうか。

そこで次回は、一般の滑らかな関数 f(x) に対して「おつりの項」をつけて「次数が有限の多項式の姿」に「化かす」ことができるか、について考察してみよう。


<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>

(1)テーラー展開とはなにか
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開

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