≪テーラー展開の注意点≫
……(1) の Taylor展開を考える。
そこで(1)式を「多項式の姿」に「化かす」ことを考えてみると、
以下同様に
よって、
したがって、関数
が多項式の姿に「化ける」としたら
……(2)
という姿に「化ける」のが一番もっともらしい、ということが分かる。
但し、上での議論は「化ける」べき「多項式の姿」に「当たり」をつけただけであり、関数
が実際に(2)式のような「多項式の姿」に「化ける」ということを示したわけではないことに注意。
そこで多項式ではない関数
が(2)式のように「多項式の姿」に「化ける」などという都合の良いことが本当にあるのか?ということを、考えてみよう。
いま(2)式の右辺が「無限和」であることは、とりあえず気にしないことにして(2)式の両辺に
を掛け算してみる
……(3)
となりそうだから、確かに(2)式が成り立っていそうである。
すなわち(1)式のような多項式ではない関数も「多項式の姿」に「化け」そうなことが分かる。
ところが(2)式の両辺に
を代入すると
となり、明らかに正しくない式が得られてしまう。
そこで慎重を期して、今度は「有限和」の形で考えてみると(3)式に対応する等式は
を勝手にひとつ取ってきた自然数として
両辺を
で割り算して適当に移項すると
……(4)
この(4)式は勝手な実数
に対して常に成り立つ等式であることに注意します。
いま、
に対して(4)式を順番に書き下すと
というように、関数
が段々と「多項式の姿」に「化けて」いく様子が分かる。この操作を続けてゆくとき
……(5)
となることが確かめられたとすると、(4)式の両辺で
を考えることにより、このような実数
に対して(2)式が成り立つことが分かる。
そこで、次に(5)式が成り立つような実数
の条件を考える。
いま、勝手にひとつ与えられた実数
に対して
また
と考えて
を 「
と 0 との間の距離」である、と解釈すると(いわゆる収束半径)
(左側では
が 0 に近づく、右側では
と 0 との間の距離が 0 に近づく、と解釈している)
このとき
したがって
となる。
以上の考察より(4)式の右辺に現われる「おつりの項」を無視することができるのは、
のときだけである。したがって、(2)式の等式が成り立つのは、
のときだけである、ことが分かる。
一般の関数
に対するTaylor展開を考えたとき、どのような実数
に対して
という等式が成り立つのか、ということは、きちんと考えなければならない問題である。また、そのとき(2)式のように、いきなり「次数が無限大の多項式の姿」に「化か」して考えるのではなく、(4)式のように「有限和」で考えるほうがより理解できる、のではないだろうか。
そこで次回は、一般の滑らかな関数
に対して「おつりの項」をつけて「次数が有限の多項式の姿」に「化かす」ことができるか、について考察してみよう。
<「牛腸作 数学IB演習」・独習ノートより>
(1)テーラー展開とはなにか
(3)部分積分とテーラーの定理
(4)テーラーの定理・剰余項の考察
(5)テーラー多項式の考察
(6)テーラー展開の計算
(7)合成関数のテーラー展開
(8)近似式としてのテーラー展開
(9) a のまわりでのテーラー展開
(10)テーラーの定理・極限
(11)多変数のテーラー展開
補論・積分に関する「平均値の定理」
補論・発散のスピード
補論・級数の収束判定
補論・ロルの定理・考察
補論・偏微分(1)偏導関数
補論・偏微分(2)ヤングの定理
余録・バーゼル問題とテーラー展開