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発展・線形空間の「直和」

≪線形空間の直和≫

一般に、W1W2Wm を線型空間 V の線型部分空間として、W1W2Wm に属する元たちの和の形で表わされるような V の元全体の集合を、

W1+W2+⋯+Wm = {u1+u2+⋯+umV | uiWi , i=12m}

と表わして、線型部分空間 W1W2Wm の「和」と呼ぶ。このとき、「和空間」W1+W2+⋯+Wm も V の線型部分空間になる。
いま、与えられた線型空間 V をいくつかの線型部分空間に分解することを考えると、線型空間 Vの元も「成分分解」することになる。
例えば、 V=R3 として、

W1= {u1= x y 0 R3  | x,y R} W2= {u2= 0 y z R3  | y,z R}  という例を考えてみると u= 1 2 3  というベクトルは 1 2 3 = 1 2 0 + 0 0 3 = 1 0 0 + 0 2 3  あるいは α+β=2  として 1 2 3 = 1 α 0 + 0 β 3
というように、幾通りにも分解することができる。なぜ、このようになるか、を考えてみると、この場合には、W1 と W2 が重なる方向
W1W2 ={ 0 y 0 R3  | yR }R
が現われることになり、「 R3 が  W1 の方向と W2 の方向に分解している」とは言えないことが分かる。

さて、V の勝手な元 uV が、

u= u1+u2+⋯+um

となるような元 uiWi  i=12m で表わされているとする。
そこで、
ui,ui'Wi  i=12m  として、uV が、 u= u1+u2+⋯+um (1) u= u1'+ u2'+…+ um' (2)
というように、二通りに「成分分解」されたと仮定してみる。
このとき、(1)式から(2)式を引き算してみると、
0= u1- u1' + u2- u2' +…+ um- um' (3)  となることが分かる。

 ところで、uV が、 u= w1+w2+⋯+wm  のように表わされる、とすると、 u= w1 w2 wm
というように、W1 方向の成分 w1W1 と、W2 方向の成分 w2W2 と、・・・・、Wm 方向の成分 wmWm に「成分分解」する、ということを表わしていると解釈することができる。
そこで、V の原点 0V の「成分分解」が

0= 0+ 0+⋯+ 0 (4)

という分解、すなわち、すべての方向成分が 0 である
u= 0 0 0
という分解しか存在しない、と「仮定」してみる。

すると、(3)式は、原点 0V の「成分分解」を表わしている、と解釈することができるから

u1- u1' = u2- u2' =…= um- um' =0  となることが分かる。したがって、 u1= u1' u2= u2' um= um'
よって, (1)式の「成分分解」と (2)式の「成分分解」は, 同じ「成分分解」であることになる。ということは、(4)の条件を付与するならば、V の「成分分解」は「一意的」に表わされる、ということを意味している。

 以上の考察をまとめると、線型空間 V と線型部分空間 W1W2Wm の関係は

  (イ) 和空間
勝手な元 uV に対して、

u= u1+ u2+⋯+ um

となるような元 u1W1u2W2umWm が存在する。

V= W1+ W2+⋯+ Wm

  (ロ) 一意性
u1W1u2W2umWm として、

V0= u1+ u2+⋯+ um u1= u2=⋯= um =0 (5)

となることが分かった。

(イ)、(ロ)の二つの条件がが満たされるときに、線型空間 V は線型部分空間 W1W2Wm の「直和」であると言う。 とくに、(ロ) という「成分分解」の一意性の条件が成り立っていることを強調して表わすために,「直和」に対しては,「 + 」という記号ではなく、「 ⊕ 」という記号を用いて

V= W1 W2⊕⋯⊕ Wm (6)

というように表わして、(6) 式の分解を線型部分空間 W1W2Wm による線型空間 V の「直和分解」と呼ぶ。

 ところで、いま、m=2 として、分解する成分の数が二つの場合を例に W1 W2 ={0} (7)
を考えた場合、W1 と W2 には重なる方向が無いから、W1+W2 は W1 の方向と W2 の方向に分解している、と考えることができる。
例えば、、u1W1,u2W2 として、原点 0V
0= u1+ u2 (8)
というように表わされたと仮定してみる。このとき、(8)式を
u1=- u2  というように書き直してみると u1 W1  , - u2 W2  となることが分かるから u1=- u2 W1 W2  よって、(7)式が成り立つと仮定すると u1=- u2=0 u1= u2=0
したがって、(ロ)という条件が成り立つことが分かる。

すると、m=2 の場合には、線型空間 V が、線型部分空間 W1 と W2 の「直和」となる条件を、

  (イ) 勝手な元 uV に対して、

u= u1+ u2

となるような元 u1W1,u2W2 が存在する。

  (ロ) W1 W2 ={0}

というように言い換えることができることが分かる。

そこで、線型空間V が線型部分空間 W1,W2 に   (dimRW1 =2  ,  dimRW2 =1 として)
「直和分解」しているとすると、線型空間 V が W1 の方向と、W2 の方向とに「分解」していることを、次のように確認することができる。

先ず、W1 の基底 {e1,e2} と、W2 の基底 {f1} を、 勝手に一組ずつ取ってくると、{e1,e2,f1}  が V の基底になることを確認しておこう。
そのためには、(4)線形空間の考えとは-線形空間に「座標付け」する- で見たように、

I) 勝手な元 uV にたいして

u=a1e1+ a2e2+ b1f1

  となるような数 a1,a2,b1R が存在する。

IIa1,a2,b1R として

0= a1e1+ a2e2+ b1f1 a1=a2= b1 =0
  となる

という二つの条件が満たされることを確かめればよい。

I) の条件
「直和」に対する(イ)の条件より、

u= u1+ u2 (9)  となる元 u1 W1,u2 W2 が存在する。 さらに、{e1,e2} , {f1} が、それぞれ W1,W2 の基底であること注意すると、

u1= a1e1+ a2e2 u2= b1f1 (10)

となる実数 a1,a2,b1R が存在することが分かる。
そこで、(10)式を(9)式に代入すると、

u= a1e1+ a2e2+ b1f1

と表わせることから、(I) という条件が成り立つことが分かる。

II)の条件
いま、a1,a2,b1R として、

0= a1e1+ a2e2+ b1f1

となると仮定してみる。すると {e1,e2},{f1} は、それぞれ  W1,W2 の基底であるから、

u1= a1e1+ a2e2 u2= b1f1 (11)

という式によって、u1,u2V を定めると、 u1W1  ,  u2W2  であり、 0= u1+ u2
となることが分かる。よって、直和に対する (ロ) という条件から
u1= u2= 0 (12)
すると、(11)、(12)式より
0= a1e1+ a2e2 0= b1f1
{e1 ,e2},{f1} は、それぞれ  W1,W2 の基底であることに注意すると、
a1= a2= b1=0
となることが分かる。よって、(II) という条件も成り立つことが分かる。

以上から、基底に対する (I), (II) という二つの条件が成り立つことが分かるから {e1,e2,f1} は、V の基底になる、ことが分かる。

そこで、基底 {e1,e2,f1} を用いて、
VR3
というように「番地割り」して考えてみると、

W1= {u1= a1 a2 0 R3  | a1,a2 R} R2 W2= {u2= 0 0 b1 R3  | b1 R} R

となることが分かるから、確かに、線型空間 V が、W1 の方向と、W2 の方向に分解していることが分かる。
一般に、線型空間 V が、

V= W1 W2⊕⋯⊕ Wm

というように直和分解しているときに、それぞれの線型部分空間 Wi の基底を勝手に一組ずつ取ってきて、それらの基底の元をすべて集めたものを {e1,e2,⋯,en} とすると、{e1,e2,⋯,en}V の基底となる。また、{e1,e2,⋯,en} という基底を用いて、線型空間 V に「番地割り」をして考えると、線型空間 V が、W1 の方向, W2 の方向、・・・、Wm の方向に分解していることが分かる。

≪固有ベクトル空間分解≫

 そこで、固有ベクトル空間

V(λ)={uCn | Au=λu}

について考えてみよう。

いま、A を3行3列の正方行列として、行列 A が、正則行列 P を用いて
P-1AP= Λ= 1 0 0 0 1 0 0 0 2
というように対角化できる場合について考えてみる。

 行列 P の列ベクトルを  P=p1p2p3  と表わすことにすると P-1AP=Λ AP=PΛ   A(p1p2p3)=(p1p2p3) 1 0 0 0 1 0 0 0 2   (Ap1Ap2Ap3)=(1p11p22p3)    Ap1=p1 Ap2=p2 Ap3=2p3 (13)
ところで、P は正則行列であるから、{p1p2p3} を基底として、線型空間 V の「番地割り」を新たに、

Vu= a1p1+ a2p2+ a3p3 a1 a2 a3 C3 (14)
と表わすことにして、固有ベクトル空間 Au=λu を考えてみると

Au= A a1p1+ a2p2+ a3p3 = a1Ap1 + a2Ap2 + a3Ap3 = a1p1+ a2p2+ a3·2p3  (13)式より = a1p1+ a2p2+ 2a3p3  したがって、 Au=u    Au-u =0    0·a1p1 +0· a2p2 +1· a3p3 =0    a3=0
となることが分かるから、 行列 A の固有値 1 に対応する固有ベクトル空間 V1 は、

V1= {u1= a1p1 + a2p2 V |  a1,a2 C}  全く同様に、 Au=2u    Au-2u =0    -1·a1p1 -1· a2p2 +0· a3p3 =0    a1=a2=0
したがって、 行列 A の固有値 2 に対応する固有ベクトル空間 V2 は、

V2= {u2= a3p3 V |  a3 C}

となることが分かる。
すると、いま、VV1 と V2 に分解されるわけだが、それが「直和分解」であることが、次のようにして分かる。
 V が、線型部分空間 V1,V2 の直和となるための条件は、前節でみたように、

(イ) 勝手な元 uV に対して、
u=u1 +u2
となるような元 u1V1,u2 V2 が、存在する。
(ロ) u1 V1, u2 V2 として、
0=u1 +u2    u1 =u2 =0
となる。

という二つの条件が満たされることが確かめられればよい。

 (イ) の条件について

いま、uV を勝手にひとつ取ってきたとして、u
u= a1p1+ a2p2+ a3p3  と表わして、 u1= a1p1+ a2p2 u2= a3p3  と定めると、 V1= {u1= a1p1 + a2p2 V |  a1,a2 C} V2= {u2= a3p3 V |  a3 C}  となることが分かるから、 u1 V1 ,  u2 V2  したがって、 u= u1+ u2
 と表わせることが分かる。

 よって、(イ) という条件が成り立つ。

 (ロ) の条件について

 いま、u1 V1 ,  u2 V2 として、 0= u1+ u2 (15)  であると仮定してみる。このとき、u1,u2 を、 u1= a1p1+ a2p2 u2= a3p3 (16)  として、(16)式を(15)式に代入すると 0= a1p1+ a2p2+ a3p3
ここで {p1p2p3}  が V の基底であることに注意すると、
a1= a2= a3=0 (17)  となることが分かるから、(17)、(16)式より、 u1= u2=0
となることが分かる.

 よって、(ロ) という条件も成り立つ。

以上から、(イ)、(ロ) という二つの条件が成り立つことが分かるから、線型空間 V は、

V= V1 V2

というように「直和分解」される、ことが分かる。

 全く同様に、A を3行3列の正方行列として、行列 A が、正則行列 P を用いて
P-1AP= Λ= 1 0 0 0 2 0 0 0 3
というように対角化できる場合、 それぞれの固有ベクトル空間は

V1= {u1= a1p1 V |  a1 C} V2= {u2= a2p2 V |  a2 C} V3= {u3= a3p3 V |  a3 C}  となり、線型空間 V は V= V1 V2 V3
というように「直和分解」される。

より一般に、A を n 行n 列の行列として、行列 A が、正則行列 P を用いて、
P-1AP=Λ

というように、対角化できる場合には、行列 A の相異なる固有値を λ1λ2λmC として、線型空間 Cn が、

Cn= Vλ1 Vλ2⊕⋯⊕ Vλm

というように、「直和分解」する。このように「直和分解」することを、「固有ベクトル空間分解」と呼ぶ。

<「牛腸作 数学Ⅱ演習」・独習ノートより>

(1)行列の基本変形とはなにか
(2)行列を「simpleな形」に変形する
(3)基本変形により逆行列を求める
(4)線形空間の考えとは
(5)線形写像とは
(6)異なる基底はいくつあるか
(7)表現行列変換の基本
(8)行列の対角化の問題
(9)行列の対角化の問題(2)

行列式(1)行列式とはなにか
行列式(2)行列式の実務計算
行列式(3)行列式の余因子

展開(1) 線型漸化式と行列
展開(2) 線型常微分方程式

発展 線型空間の「内積」構造(1)対称行列
発展 線型空間の「内積」構造(2)直交行列
発展 線型空間の「直和」

補論 Cramer の公式と「掃き出し法」
補論 Cayley-Hamilton の定理
補論 行列値関数の微分

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