≪線形空間の直和≫
一般に、
の線型部分空間として、
に属する元たちの和の形で表わされるような
の元全体の集合を、
と表わして、線型部分空間
の「和」と呼ぶ。このとき、「和空間」
の線型部分空間になる。
いま、与えられた線型空間 V をいくつかの線型部分空間に分解することを考えると、線型空間 Vの元も「成分分解」することになる。
例えば、
として、
というように、幾通りにも分解することができる。なぜ、このようになるか、を考えてみると、この場合には、W1 と W2 が重なる方向
が現われることになり、「 の方向に分解している」とは言えないことが分かる。
さて、
の勝手な元
が、
となるような元 で表わされているとする。
そこで、
というように、二通りに「成分分解」されたと仮定してみる。
このとき、(1)式から(2)式を引き算してみると、
というように、 方向の成分 と、 方向の成分 と、・・・・、 方向の成分 に「成分分解」する、ということを表わしていると解釈することができる。
そこで、 の「成分分解」が
という分解、すなわち、すべての方向成分が 0 である
という分解しか存在しない、と「仮定」してみる。
すると、(3)式は、原点 の「成分分解」を表わしている、と解釈することができるから
よって, (1)式の「成分分解」と (2)式の「成分分解」は, 同じ「成分分解」であることになる。ということは、(4)の条件を付与するならば、 の「成分分解」は「一意的」に表わされる、ということを意味している。
以上の考察をまとめると、線型空間
と線型部分空間
の関係は
(イ) 和空間
勝手な元 に対して、
となるような元 が存在する。
(ロ) 一意性
として、
となることが分かった。
(イ)、(ロ)の二つの条件がが満たされるときに、線型空間
は線型部分空間
の「
直和」であると言う。
とくに、(ロ) という
「成分分解」の一意性の条件が成り立っていることを強調して表わすために,「直和」に対しては,「 + 」という記号ではなく、「 ⊕ 」という記号を用いて
というように表わして、(6) 式の分解を線型部分空間
による線型空間
の「
直和分解」と呼ぶ。
ところで、いま、 として、分解する成分の数が二つの場合を例に
を考えた場合、 には重なる方向が無いから、分解している、と考えることができる。
例えば、、 が
というように表わされたと仮定してみる。このとき、(8)式を
したがって、(ロ)という条件が成り立つことが分かる。
すると、
の場合には、線型空間
が、線型部分空間
の「直和」となる条件を、
(イ) 勝手な元
に対して、
となるような元 が存在する。
(ロ)
というように言い換えることができることが分かる。
そこで、線型空間
が線型部分空間
に
「直和分解」しているとすると、線型空間
が
の方向とに「分解」していることを、次のように確認することができる。
先ず、
を、 勝手に一組ずつ取ってくると、
の基底になることを確認しておこう。
そのためには、
(4)線形空間の考えとは-線形空間に「座標付け」する- で見たように、
(
I) 勝手な元
にたいして
となるような数
が存在する。
(
II)
として
となる
という二つの条件が満たされることを確かめればよい。
(
I) の条件
「直和」に対する(イ)の条件より、
さらに、 が、それぞれ の基底であること注意すると、
となる実数 が存在することが分かる。
そこで、(10)式を(9)式に代入すると、
と表わせることから、(I) という条件が成り立つことが分かる。
(
II)の条件
いま、 として、
となると仮定してみる。すると は、それぞれ の基底であるから、
という式によって、 を定めると、
となることが分かる。よって、直和に対する (ロ) という条件から
すると、(11)、(12)式より
は、それぞれ の基底であることに注意すると、
となることが分かる。よって、(II) という条件も成り立つことが分かる。
以上から、基底に対する (
I), (
II) という二つの条件が成り立つことが分かるから
の基底になる、ことが分かる。
そこで、基底
を用いて、
というように「番地割り」して考えてみると、
となることが分かるから、確かに、線型空間
の方向に分解していることが分かる。
一般に、線型空間
が、
というように直和分解しているときに、それぞれの線型部分空間
の基底を勝手に一組ずつ取ってきて、それらの基底の元をすべて集めたものを
とすると、
は
の基底となる。また、
という基底を用いて、線型空間
に「番地割り」をして考えると、線型空間
が、
の方向,
の方向、・・・、
の方向に分解していることが分かる。
≪固有ベクトル空間分解≫
そこで、固有ベクトル空間
について考えてみよう。
いま、
を3行3列の正方行列として、行列
が、正則行列
を用いて
というように対角化できる場合について考えてみる。
ところで、 は正則行列であるから、 を基底として、線型空間 の「番地割り」を新たに、
と表わすことにして、固有ベクトル空間 を考えてみると
となることが分かるから、 行列 の固有値 1 に対応する固有ベクトル空間 は、
したがって、 行列 の固有値 2 に対応する固有ベクトル空間 は、
となることが分かる。
すると、いま、
は
に分解されるわけだが、それが「直和分解」であることが、次のようにして分かる。
が、線型部分空間
の直和となるための条件は、前節でみたように、
(イ) 勝手な元 に対して、
となるような元 が、存在する。
(ロ) として、
となる。
という二つの条件が満たされることが確かめられればよい。
(イ) の条件について
いま、 を勝手にひとつ取ってきたとして、 を
と表わせることが分かる。
よって、(イ) という条件が成り立つ。
(ロ) の条件について
ここで の基底であることに注意すると、
となることが分かる.
よって、(ロ) という条件も成り立つ。
以上から、(イ)、(ロ) という二つの条件が成り立つことが分かるから、線型空間
は、
というように「直和分解」される、ことが分かる。
全く同様に、
を3行3列の正方行列として、行列
が、正則行列
を用いて
というように対角化できる場合、 それぞれの固有ベクトル空間は
というように「直和分解」される。
より一般に、
を n 行n 列の行列として、行列
が、正則行列
を用いて、
というように、対角化できる場合には、行列
の相異なる固有値を
として、線型空間
が、
というように、「直和分解」する。このように「直和分解」することを、「固有ベクトル空間分解」と呼ぶ。
<「牛腸作 数学Ⅱ演習」・独習ノートより>
(1)行列の基本変形とはなにか
(2)行列を「simpleな形」に変形する
(3)基本変形により逆行列を求める
(4)線形空間の考えとは
(5)線形写像とは
(6)異なる基底はいくつあるか
(7)表現行列変換の基本
(8)行列の対角化の問題
(9)行列の対角化の問題(2)
行列式(1)行列式とはなにか
行列式(2)行列式の実務計算
行列式(3)行列式の余因子
展開(1) 線型漸化式と行列
展開(2) 線型常微分方程式
発展 線型空間の「内積」構造(1)対称行列
発展 線型空間の「内積」構造(2)直交行列
発展 線型空間の「直和」
補論 Cramer の公式と「掃き出し法」
補論 Cayley-Hamilton の定理
補論 行列値関数の微分