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発展・線形空間の「内積」構造(2)

≪直交行列≫

3行3列の正方行列 P

P= p11 p12 p13 p21 p22 p23 p31 p32 p33  そこで、 p1= p11 p21 p31  ,  p2= p12 p22 p32  ,  p3= p13 p23 p33  として、 P= p1 p2 p3

 と表わすことにして、次のような行列を考えてみる。

Pt P= p1t p2t p3t p1 p2 p3 = p1t·p1 p1t·p2 p1t·p3 p2t·p1 p2t·p2 p2t·p3 p3t·p1 p3t·p2 p3t·p3

ここで、u,vR3 として R3 上で標準的なユークリッド内積は、行列の掛け算を用いて

⁡⟨u,v⁡⟩ = ut·v (1)

というように表わされることに注意して、それぞれの行列成分を内積を用いて表わすと

Pt P= ⁡⟨p1,p1⁡⟩ ⁡⟨p1,p2⁡⟩ ⁡⟨p1,p3⁡⟩ ⁡⟨p2,p1⁡⟩ ⁡⟨p2,p2⁡⟩ ⁡⟨p2,p3⁡⟩ ⁡⟨p3,p1⁡⟩ ⁡⟨p3,p2⁡⟩ ⁡⟨p3,p3⁡⟩ (2)

というように表わされることが分かる。

そこで、内積 ⁡⟨pi,pi⁡⟩が、ベクトル pi の長さの2乗であることに注意して、長さを”1”に規格化して、相異なるベクトルが「直交する」という条件を付与すると、結局、PtP

Pt P= 100 010 001 =I
というように表わされることが分かる。
 すなわち、
⁡⟨pi ,pj ⁡⟩= 1, i=j 0, ij i,j=123 (3)
が成り立つ、ということである。

いま、n 行 n 列の行列 P が与えられているとして、u,vRn に対して、PuRn というベクトルと PvRn というベクトルの間の内積 ⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ を考えてみる。そこで、⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ という値を「行列の積」を用いて表わしてみると

⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ = Put · Pv = ut Pt · Pv = ut · Pt Pv = ⁡⟨u , Pt Pv⁡⟩ (4)  となるが、特に PtP =I (5)  であるとすると、(4)式から ⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ = ⁡⟨u , Pt Pv⁡⟩ = ⁡⟨u ,Iv⁡⟩ = ⁡⟨u ,v⁡⟩
となることが分かる。
 すなわち、任意のベクトル u,v が、行列 P によって、Pu,Pv に変換されたとしても、その内積 ⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ は、元の内積 ⁡⟨u,v⁡⟩ のままである、ということを意味している。

逆に、勝手なベクトル u,vRn に対して、内積を保つような線形写像

⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ = ⁡⟨u ,v⁡⟩ (6)

という式が成り立っていると仮定すると、(6)式は、(4)式を用いて、

⁡⟨Pu,Pv⁡⟩ - ⁡⟨u ,v⁡⟩ = ⁡⟨u, Pt Pv⁡⟩ - ⁡⟨u ,v⁡⟩ = ⁡⟨u, Pt Pv -v ⁡⟩ = ⁡⟨u,( Pt P-I ⁡)v ⁡⟩   したがって、(6)式は、 ⁡⟨u,( Pt P-I ⁡)v ⁡⟩ =0 (7)
と、書き表わせることが分かる。
すると、(7)式が勝手なベクトル u,v に対して成り立つためには、

⁡( Pt P-I ⁡)=0  でなければならないから、 Pt P=I  でなければならないことが分かる。

 一般に、
PtP=I (8)

となるような n 行 n 列の正方行列 P を「直交行列」と呼ぶ。特に、(8)式より、直交行列 P は正則行列であり, その逆行列は

P-1=Pt (9)

という簡単な形で与えられることが分かる。

ところで、行列 P が、直交行列であるための条件(3)式は、より一般に、 Rn のいくつかのベクトル p1,p2,p3,⋯,pLRn が、

⁡⟨pi ,pj ⁡⟩= 1, i=j 0, ij i,j=12L (10)

という条件を満たすときに、p1p2p3pL を「正規直交系」と呼ぶ。

そこで、いま、Rn の正規直交系 p1p2p3pL が勝手にひとつ与えられているとして、p1p2p3pL  が生成する Rn の線型部分空間を

W= a1p1+ a2p2+ ⋯+ aLpL a1a2aLR

と表わすことにすると、p1p2p3pL は W の基底になる、そのことを確認しておこう。
そのためには、(4)線形空間の考えとは でみた「線型空間に座標付けする」を反省してみると、p1p2p3pL が W の基底となる条件としては、

(イ)  勝手なベクトル uW に対して、 u= a1p1+ a2p2+ ⋯+ aLpL  となるような実数  a1a2aLR が存在する。 (ロ)  a1a2aLR として、 0= a1p1+ a2p2+ ⋯+ aLpL a1=a2= =aL=0  となる。

という二つの条件が満たされることである。このうち、(イ) という条件については、W の定義から、自動的に満たされることが分かるから、後は、(ロ) という条件が満たされることが確かめられればよいということになる。

そこで、いま、 a1a2aLR  として、 0= a1p1+ a2p2+ ⋯+ aLpL (11)  であると仮定してみる。
このとき、(10)式に注意して、i=12L に対して、pi と (11)式との内積を考えてみると、
0= ⁡⟨pi, a1p1+ a2p2+ ⋯+ aLpL ⁡⟩ = ⁡⟨pi, a1p1⁡⟩+ ⁡⟨pi, a2p2⁡⟩+ ⋯+⁡⟨pi, aLpL⁡⟩ = a1·⁡⟨pi ,p1⁡⟩+ a2·⁡⟨pi ,p2⁡⟩+ ⋯+aL·⁡⟨pi, pL⁡⟩ =ai  したがって、 a1= a2=⋯ = aL =0

以上から、(イ),(ロ) という二つの条件が満たされることが分かるから, p1p2p3pL は W の基底になる、ことが分かる。特に、

L=n ⇒ W= Rn

となることが分かるから、p1p2p3pn は Rn の基底になる、ことが分かる。
このとき、、p1p2p3pn を Rn の「正規直交基底」と呼ぶ。
すると、(2)式より、P が直交行列となる条件を、

  「P の列ベクトル p1p2p3pn が Rn の正規直交基底となる 」

というように言い換えることができる。

 すると、これまでの考察より、P が直交行列となる条件を、

P が直交行列となる
P の列ベクトルが Rn の正規直交基底となる
P は Rn の内積を保つ線型写像を定める

というように特徴づけることができる。
また、n 行 n 列の正方行列 P,Q に対して、行列式は、

det Pt =detP detPQ =detP·detQ  となることに注意すると、直交行列 P の行列式は det PtP =det Pt ·detP = detP·detP = detP2  また、PtP=I より detI=1  したがって、 detP2 =1 detP=±1
となることが分かる。



<「牛腸作 数学Ⅱ演習」・独習ノートより>

(1)行列の基本変形とはなにか
(2)行列を「simpleな形」に変形する
(3)基本変形により逆行列を求める
(4)線形空間の考えとは
(5)線形写像とは
(6)異なる基底はいくつあるか
(7)表現行列変換の基本
(8)行列の対角化の問題
(9)行列の対角化の問題(2)

行列式(1)行列式とはなにか
行列式(2)行列式の実務計算
行列式(3)行列式の余因子

展開(1) 線型漸化式と行列
展開(2) 線型常微分方程式

発展 線型空間の「内積」構造(1)対称行列
発展 線型空間の「内積」構造(2)直交行列

補論 Cramer の公式と「掃き出し法」
補論 Cayley-Hamilton の定理
補論 行列値関数の微分

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