線形代数(17)

≪行列の余因子とは≫

これまで、行列式を考察するに際して、主に、「列」に関する議論を行ってきたが、全く同様に「行」に関する議論を行なうこともできる。  例えば、行列 A を
A= a11 a12 a13 a21 a22 a23 a31 a32 a33
とした場合、行列 A の一行目の行ベクトルを、
a11a12a13= a11· 100+ a12· 010+ a13· 001
というように分解して、行列式を特徴づける三つの性質
 (イ) 多重線形性
 (ロ) 歪対称(交代)性
 (ハ) 規格化条件
を用いると、
a11 a12 a13 a21 a22 a23 a31 a32 a33 = a11· 1 0 0 a21 a22 a23 a31 a32 a33 + a12· 0 1 0 a21 a22 a23 a31 a32 a33 + a13· 0 0 1 a21 a22 a23 a31 a32 a33 (1) = a11· 1 0 0 0 a22 a23 0 a32 a33 + a12· 0 1 0 a21 0 a23 a31 0 a33 + a13· 0 0 1 a21 a22 0 a31 a32 0 (2)  そこで、さらに、 1 0 0 0 a22 a23 0 a32 a33 = a22 a23 a32 a33 (3)  となることに注意すると、 a11 a12 a13 a21 a22 a23 a31 a32 a33 = a11· a22 a23 a32 a33 - a12· a21 a23 a31 a33 + a13· a21 a22 a31 a32 (4)
というように、(一行目に関する) 行列式の展開公式が得られる。

さて、いま、n 行 n 列の正方行列を考えた場合、(2)式のように、i 行 j 列の第(i,j)成分だけが 1 で他の成分がすべて 0 に置き換えて得られる行列の行列式を作ることができる。 
a1,1 a1, j-1 0 a1, j+1 a1, n ai-1,1 ai-1, j-1 0 ai-1, j+1 ai-1, n 0 0 1 0 0 ai+1,1 ai+1, j-1 0 ai+1, j+1 ai+1, n an,1 an, j-1 0 an, j+1 an, n  (便宜上、添え字に"," を入れた)
こうして得られる行列の行列式を A の第 (i, j) 余因子といい、A~ij と表わす

ところで、(3)式のようなパターンをつくると、n次の正方行列を (n-1)次の正方行列に置き換えることができるわけだが、置き換えた行列が、第i行、第j列を切り取った行列のままの形を保つためには、i行、j列を順繰りに送ったと同じ回数が必要なわけで、差し替える度に(-1)倍されることを考慮すると、結局、(-1)i+j の符号がつくことになる。 すなわち、余因子 A~ij は,第 i 行と第 j 列を消去して得られるサイズが (n − 1)次の正方行列の行列式に (-1)i+j を掛けたものに等しいことが分かる。

余因子を用いると、(4)式の1行目に関する行列式の展開公式は
detA= a11A~11+ a12A~12+ a13A~13 (5)  というように、簡明な形で表わすことができる。  全く同様に考えると、「2列目」に関する展開公式は detA= a12A~12+ a22A~22+ a32A~32 (6)  というように書き表わせることが分かる。

< 余因子と逆行列 >

いま、行列 A を
A= a11 a12 a13 a21 a22 a23 a31 a32 a33 「行ベクトル」をそれぞれ、 a1= a11 a12 a13 a2= a21 a22 a23 a3= a31 a32 a33   として、 b~1 = A~11 A~12 A~13  とする。
いま、勝手な「行ベクトル」x1x2x3R
x= x1 x2 x3
b~1 という「列ベクトル」との積がどうなるか、ということを考えてみよう。(前述の(1),(2),(3)式を逆に辿ることになる)
xb~1 = x1 x2 x3 A~11 A~12 A~13 = x1· 1 0 0 0 a22 a23 0 a32 a33 +x2· 0 1 0 a21 0 a23 a31 0 a33 +x3· 0 0 1 a21 a22 0 a31 a32 0 = x1· 1 0 0 a21 a22 a23 a31 a32 a33 +x2· 0 1 0 a21 a22 a23 a31 a32 a33 +x3· 0 0 1 a21 a22 a23 a31 a32 a33 = x1 x2 x3 a21 a22 a23 a31 a32 a33  よって、 xb~1 = x a2 a3 (7)
すなわち, x という「行ベクトル」に b~1 という「列ベクトル」を右から掛け算するということは, 行列 A の一行目を x に置き換えて得られる行列の行列式を考えることと同じことである、ということが分かる。そこで、x として、行列 A の「行ベクトル」 aii=123 を考えるてみると、(7)式より、
ai b~1 = ai a2 a3
となるが、行列式の持つ(ロ)という性質から、結局
ai b~1 = detA, i=1 のとき 0 i=2,3 のとき
となることが分かる。
それでは、二行目の場合はどうなるか、それに対応する「列ベクトル」を
b~2 = A~21 A~22 A~23  とすると xb~2 = x1 x2 x3 A~21 A~22 A~23 = x1· 0 a12 a13 1 0 0 0 a32 a33 +x2· a11 0 a13 0 1 0 a31 0 a33 +x3· a11 a12 0 0 0 1 a31 a32 0 = a11 a12 a13 x1 x2 x3 a31 a32 a33 = a1 x a3 (8)
三行目の場合、それに対応する「列ベクトル」を
b~3 = A~31 A~32 A~33  とすると  全く同様の議論をすることで xb~3 = a1 a2 x (9)
となることが分かる。 。そこで、x として、行列 A の「行ベクトル」 ai,i,j=123 を考えるてみると、(7),(8),(9)式より、
ai b~j = detA, i=j のとき 0 ij のとき
いま、「列ベクトル」 b~jj=123 を並べた行列を
B~= b~1 b~2 b~3  とすると AB~= a1 a2 a3 b~1 b~2 b~3 = a1 b~1 a1 b~2 a1 b~3 a2 b~1 a2 b~2 a2 b~3 a3 b~1 a3 b~2 a3 b~3 = |A| 0 0 0 |A| 0 0 0 |A| = ⁡|A⁡|· 1 0 0 0 1 0 0 0 1 = detA·I (10)
B~ をきちんと書くと
B~= A~11 A~21 A~31 A~12 A~22 A~32 A~13 A~23 A~33 (11)
一般に、正方行列 A に対して、Aの余因子 A~ij を用いて、(11)式のような形で定義される行列 B~ を行列 A の余因子行列と呼ぶ。 ここで、行列 A の余因子行列の i 行 j 列成分は、 A~ij  ではなく、A~ji 転置行列になっていることに注意。このように行と列の添え字が逆転してしまう原因は、上の議論を反省すると、その理由も分かると思います。

上では, 行に関する考察を行なってきたが、それでは、列に関してはどうなるだろうか。
いま、行列 A の「列ベクトル」を
A= c1 c2 c3

と表わして、行列 A の余因子行列 B~ の「行ベクトル」を
d~i= A~1i A~2i A~3i i=123
として、さらに、勝手な「列ベクトル」を
x'= x1 x2 x3 x1x2x3 R
と表わすことにする。
いま、x' という「列ベクトル」にd~1 という「行ベクトル」を左から掛け算してみよう。
d~1x' = A~11 A~21 A~31 x1 x2 x3 = 1 0 0 0 a22 a23 0 a32 a33 ·x1+ 0 a12 a13 1 0 0 0 a32 a33 ·x2+ 0 a12 a13 0 a22 a23 1 0 0 ·x3 = x1· 1 a12 a13 0 a22 a23 0 a32 a33 + x2· 0 a12 a13 1 a22 a23 0 a32 a33 + x3· 0 a12 a13 0 a22 a23 1 a32 a33 = x1 a12 a13 x2 a22 a23 x3 a32 a33 = x' c2 c3

d~2x' = A~12 A~22 A~32 x1 x2 x3 = x1· a11 1 a13 a21 0 a23 a31 0 a33 + x2· a11 0 a13 a21 1 a23 a31 0 a33 + x3· a11 0 a13 a21 0 a23 a31 1 a33 = a11 x1 a13 a21 x2 a23 a31 x3 a33 = c1 x' c3
d~3x' = A~13 A~23 A~33 x1 x2 x3 = a11 a12 x1 a21 a22 x2 a31 a32 x3 = c1 c2 x'
以上をまとめると
d~i cj = detA, i=j のとき 0 ij のとき
したがって、
B~A= |A| 0 0 0 |A| 0 0 0 |A| = ⁡|A⁡|· 1 0 0 0 1 0 0 0 1 = detA·I (12)
(10),(11),(12)式より
AB~=B~A= detA·I  ……(13)
 逆行列について考えてみよう。
まず、行列 A に逆行列が存在する場合を考えてみると、このことは、例えば、
AB=I  ……(14)
となるような、行列 B が存在するということを意味する。そこで (14)式の行列式を考えてみると、行列式の性質より
det(AB)= detA·detB  となるから detA·detB=1
となることが分かる。したがって、行列 A に逆行列が存在する、ということは detA0 がいえる。すなわち、
 行列 A に逆行列が存在する detA0  ……(15)
となることが分かる。
 それでは、逆の場合はどうだろうか。いま、detA0  を仮定すると、detA は単なる数であるから、単純に割り算ができて、(13)式から
A·(1detA B~) = (1detA B~) ·A =I B= (1detA B~)  とすると AB=BA=I (16)
となることが分かる。すなわち、
detA0  行列 A に逆行列が存在する  ……(17)
以上の議論で
 行列 A に逆行列が存在する detA0  ……(18)
となることが分かる。
ところで、(16)より
A-1=B = ⁡(1detA B~⁡) = 1detA A~11 A~21 A~31 A~12 A~22 A~32 A~13 A~23 A~33
というように、A の逆行列 A-1 が A の余因子行列を用いて具体的に与えられる

このことは、何を意味しているだろうか?
いままで、逆行列について、A の逆行列が AB=BA=I となる、或る何か別な行列があると考えて考察してきたことに気づく。A とは別な或る行列である。ところが、ここでは、A 自身が A の逆行列をもつ、ということを言っている。すなわち、逆行列とは、A 自身に備わった性質である、ということである。他者を介さないで自己完結している、と言える。そのことを、余因子行列の考察は教えてくれる。