……(1)
という式によって定まる m 次の多項式 を 特性多項式 と呼ぶ。
そこで、いま、(1)式を展開した多項式を として
……(2)
と書き表わすことにする。 このとき, 特性多項式 のところに、もともとの行列 A を代入して、
……(3)
とすると、 という行列は常に零行列になる、
……(4)
というのが Cayley-Hamilton の定理である。
ここで、(4)式は、(1)式の右辺に現われる変数 t のところへ行列 A をそのまま代入することで得られる
という零行列の行列式が 0 という「数」になるということを主張しているに過ぎないのに対して、(4)式は、(1)式の右辺の行列式を、(2)式のように「多項式の姿」で表わした上で, 変数 t のところに行列 A を代入することによって得られる という「行列」が「零行列」になるということを主張しているわけで、Cayley-Hamilton の定理の主張は、見かけほど当たり前の事実ではないことが分かる。
さて、例えば、
……(6)
とすると、
そこで、(7)式で与えられる多項式 のところへ、(6)式で与えられる行列 A を代入してみると、
となることが分かる。
一般に、 として、
とすると、特性多項式 は
そこで、変数 t のところへ行列 A を代入すると
このような等式が、一般の m 行 m 列の行列 A に対して成り立つということを、Cayley-Hamilton の定理は主張している。
それでは、Cayley-Hamilton の定理からどのようにして、行列 A の n 乗が求まるか?
(6)式を例に考えてみよう。
この場合、行列 A の特性多項式 は
そこで(9)式の両辺に左から A を掛け算すると
全く同様に、(8)式より、
上の考察で、例えば (9)式から という行列にとっては、行列 A は「1」のように見えるし、 (24)式から という行列にとっては、行列 A は「2」のように見えると解釈することもできる。
そこで、(10),(12)式の左辺をそれぞれ展開すると、
となることが分かるから、(14)式から(13)式を引くことで、
より一般に、行列 A の特性多項式 が、
というように、異なる二つの複素数 を用いて因数分解される場合には、CayleyHamilton の定理から
となることが分かるから、そこで (16)式を、
というように二通りに書き直して、同様の議論を行なうことで、
となることが分かるから、後は、(17)式の右辺に、 などの具体的な数値を代入することで、 が求まることになる。
ところで、これまで異なる二つの複素数を用いて因数分解される場合を考えてきたが、それでは、ただひとつの複素数を用いて因数分解される場合はどうなるだろうか?
例えば、行列 A の特性多項式 が、
というように、ただひとつの複素数 を用いて因数分解される場合には、CayleyHamilton の定理から
となる。 は、2乗すると零行列になるベキ零行列であることに注意する。そこで、「スカラー行列」と「ベキ零行列」の和の形に変形して
となることが分かるから、後は、(18)式の右辺に、 などの具体的な数値を代入することで、 が求まることになる。