前回、「行列の対角化の問題」への取り組みとしては
(i) 特性多項式
を計算して
を
すべて求める。( ⇒ 行列
の固有値が求まる)
(ii)それぞれの固有値
に対して
という連立一次方程式を解いて
を求める。( ⇒ 行列
の固有ベクトルが求まる)
(iii)
たちの中から適当にベクトル
を取り出して正則行列
をつくる。
というような方法で「対角化」を実現することができる、ということを見た。
ここで注意すべきは、すべての正方行列が「対角化」できるとは限らない、ということである。
n行 n列の正方行列 A が与えられているとすると、行列 A は、重複度を含めて n 個の固有値を持つ。いま、P の列ベクトルを と置き、これらすべてが A の固有ベクトルであるとする。
もし がすべて異なれば、異なる固有値に属する固有ベクトルは一次独立であるから、P は正則で
しかし、固有値方程式が重複解を持つ場合、すべての固有値が、自身の重複度と同じ数の一次独立な固有ベクトルを持てば、 全体で n 個の一次独立な固有ベクトルが得られるから、
A
は対角化可能である。逆に、ある固有値に属する固有ベクトルの自由度が 固有値の重複度よりも小さくなるとき、行列は対角化できない。
さらに、対角化できない例としては、ベキ零行列がある。
通常の数(例えば実数)を考えると、
とすると、何乗しても
がゼロになることはない。しかし、行列においてはゼロでない行列も何乗かするとゼロになる、ことがある。そのような行列を「ベキ零行列」という。
代表的な例としては、対角成分がすべてゼロの三角行列がある。
しかし、対角成分がすべてゼロとは限らない「ベキ零行列」があることに注意する。
例えば、
これらの「ベキ零行列」は、対角化することができない、ということが、次のようにして分かる。
いま、逆に、行列
に対する「対角化の問題」が解決して、
となるような対角行列
と正則行列
が見つかった、と仮定してみる。
すると
であることと矛盾する。全く同様に考えると、 となるベキ零行列 に対しては、「対角化の問題」を解決するような正則行列 は存在しないことが分かる。これらのことは, 前回立てた「行列の対角化の問題」を解決するための戦略が、一般には、上手くいくとは限らないということを意味している。