線形代数・展開(1)

≪線型漸化式と行列≫

漸化式が どのようになっているのか、ということを考えるにあたって、まず 2 項間漸化式の場合を考えることにする。、この場合、 α,βR として、漸化式は
αan+ βan-1 =0  ……(1)
という形の漸化式ということになる。このように書き表わされる漸化式を「定数係数の線型漸化式」と呼ぶ。
 ここで、α=0 とすると、(1)式は 2 項間漸化式ではなくなるから、α0 、そこで (1)式の両辺を α で割り算して、改めて、
γ=- βα
とすると、結局、γR として
an- γan-1 =0  ……(2)
という形の漸化式が最も一般的な 2 項間の定数係数の線型漸化式であるということになる。
すると (2)式は
an= γan-1  ……(3)
というように書き直すことができるから、(3)式を満たす数列の一般解は
an= γna0  ……(4)
となることが分かる。すなわち、2 項間漸化式の場合には、定数係数の線型漸化式の解 {an}n=0,1,2,.. とは、公比が γ の等比数列に他ならない。

それでは 3 項間漸化式の場合は、どうなるであろうか?
3 項間漸化式の定数係数の線型漸化式が、例えば、
an- 3an-1+ 2an-2 =0 n=2,3,4 (5) のように与えられているとすると、与式は an= 3an-1- 2an-2 (6) のように書き直すことができる。
ところで、(6)式の漸化式を(3)式と見比べてみると随分難しくなったように見える。(3)式の漸化式が分かりやすく感じるのは「 an-1 から  an にというように隣の数字に移るたびに γ 倍される」という漸化式の表している意味が分かりやすいからであると考えられる。
一方(6)式の漸化式は例えば「an-1 の 3倍から an-2 の 2倍を引いたものが an になる」というように式自体の意味はハッキリしているものの、それが一体何を意味しているのか、ということがよくわからない気がする。
すなわち(6)式の漸化式では、an-1 と an-2 という 「2つの数」から an という「一つの数」が決まる、という形で表されているために、次のステップに進むときに何が起きているのか、ということが少し分かりにくくなっている、ということが考えられる。
そこで(5)式の漸化式を
an-1 と an-2 という「2つの数」から an という「一つの数」が決まる』
と読まずに『わざわざ an-1 を付け加えて
an-1 と an-2 という 「2つの数」から an と an-1 という「2つの数」が決まる 』と読んでみるとどうなるか、ということを考えてみよう。
すなわち(5)式の漸化式を 
an- 3an-1+ 2an-2 =0 an= 3an-1- 2an-2 an-1= an-1 (7)  という二本の式として漸化式を読んでみる。  すると、(7)式は、行列の記法を用いて an an-1 = 3·an-1 -2·an-2 1·an-1 +0·an-2 = 3 -2 1 0 an-1 an-2 (8) と書き表わすことができる。そこで、 Xn= an an-1 A= 3 -2 1 0 と置き換えてみると (8)式は Xn= AXn-1 (9) という簡単な形で表せることがわかる。
以上より(7)式は行列の記法を用いた漸化式に書き直すと
Xn= AXn-1 n= 234  ……(10)
と書き表わすことができる。
ところで等比数列の漸化式 (3)式と見比べてみると  anXn  , γA というように文字は置き換わっているが本質的には同じタイプの方程式であることがわかる。すなわち(10)式は  X1X2X3 という「数列」が公比 A の「等比数列」であることを表している。
ここで(10)式の漸化式は X2=AX1,X3=AX2…という無限個の式を表しているが、等比数列のときと同様に
X2=AX1 X3=AX2=A2X1 X4=AX3=AA2X1=A3X1
となることがわかり、順番に「公比」が A の「等比数列」の一般項は
Xn= An-1X1 n= 234  ……(11)
と予想される。
こうして三項間漸化式が行列の考えを用いることで、一番簡単な場合である等比数列の場合とまったく同様にして「形式的」には(11)式のように解けてしまうことが分かる

それでは、四項間漸化式の場合はどうなるであろうか?
この場合も同様の考察を行なうことができて、例えば、
an- 2an-1 +3an-2 -an-3 =0 an= 2an-1 -3an-2 +an-3 an-1= an-1 an-2= an-2 (12)  という三本の式として漸化式を読んでみる。  すると、(12)式は、行列の記法を用いて an an-1 an-2 = 2·an-1 -3·an-2 +1·an-3 1·an-1 +0·an-2 +0·an-3 0·an-1 +1·an-2 +0·an-3 = 2 -3 1 1 0 0 0 1 0 an-1 an-2 an-3 そこで、 Xn= an an-1 an-2 A= 2 -3 1 1 0 0 0 1 0 と置き換えてみると (11)式は Xn= AXn-1 という(9)式と同様の形で表せることがわかる。
一般に、n 項間漸化式の場合にも全く同様に議論することができて, 定数係数の線型漸化式の解は「等比数列」であるというこ とが分かる。すると、(10)(11)式の考察より、「定数係数の漸化式を満たす数列の一般項 an を求める問題」が「 An という行列 A の n 乗を求める問題」に帰着することになる。

それでは、An という行列 A の n 乗は、どのようにして求めるのだろうか?
一般的には、勝手なサイズの正方行列 A に対して、
P-1AP=Λ  ……(13)
となるような、「見やすい形」の行列 Λ  と正則行列  P を見つける」という「行列の標準形の問題」として提起される。そこで、『(8)行列の標準形の問題』で考察したように、うまく「対角化」できたとすると、(13)式から
A= PΛP-1 となることが分かるから An= PΛP-1n = PΛP-1 PΛP-1 PΛP-1 n 個 = PΛnP-1 として An を求めることができる。

 ところで、A が 2行2列 の行列の場合には、比較的簡単に A の n 乗を求めることができる。その基盤となるのが Cayley-Hamilton の定理である。それでは Cayley-Hamilton の定理とは、どんな定理だろうか?

Cayley-Hamilton の定理
一般に、m 行 m 列の行列 A に対して、
φAt= dettI-A  ……(14)
という式によって定まる m 次の多項式 φAt特性多項式 と呼ぶ。
そこで、いま、(14)式を展開した多項式を c0,c1,⋯,cm-1R として
φAt= tm+ cm-1 tm-1 +⋯+ c1t+ c0  ……(15)
と書き表わすことにする。 このとき, 特性多項式 φAt  の変数 t のところに、もともとの行列 A を代入して、
φAA= Am+ cm-1 Am-1 +⋯+ c1A+ c0I  ……(16)
とすると、φAA という行列は常に零行列になる、
φAA= O  ……(17)
というのが Cayley-Hamilton の定理である。
ここで、(17)式は、(14)式の右辺に現われる変数 t のところへ行列 A をそのまま代入することで得られる detAI-A= detA-A = detO = 0 (18)  という式とは意味が異なるということに注意。   すなわち、(18)式は、単に、  AI-A=O
という零行列の行列式が 0 という「数」になるということを主張しているに過ぎないのに対して、(17)式は、(14)式の右辺の行列式を、(15)式のように「多項式の姿」で表わした上で, 変数 t のところに行列 A を代入することによって得られる φAA という「行列」が「零行列」になるということを主張しているわけで、Cayley-Hamilton の定理の主張は、見かけほど当たり前の事実ではないことが分かる。詳しくは別稿で議論しよう。

さて、例えば、
A= 3 -2 1 0  ……(19)
とすると、
φAt= t-3 2 -1 t = t-3t+2 = t2-3t+2 = t-1 t-2 (20)
そこで、(20)式で与えられる多項式 φAt の変数 t のところへ、(19)式で与えられる行列 A を代入してみると、
φAA= A-I A-2I = 2 -2 1 -1 1 -2 1 -2 = 0 0 0 0 となることが分かる。
一般に、abcdR として、
A= a b c d
とすると、特性多項式 φAt
φAt= t-a b c t-d = t-a t-d -bc
そこで、変数 t のところへ行列 A を代入すると
φAA= A-aI A-dI -bcI = 0 b c d-a a-d b c 0 -bc 1 0 0 1 = bc 0 0 bc - bc 0 0 bc = 0 0 0 0
このような等式が、一般の m 行 m 列の行列 A に対して成り立つということを、Cayley-Hamilton の定理は主張している。

それでは、Cayley-Hamilton の定理からどのようにして、行列 A の n 乗が求まるか?(19)式を例に考えてみよう。
 この場合、行列 A の特性多項式 φAt
φAt= t-1 t-2 となることが分かるから、Cayley-Hamilton の定理より A-1I A-2I =O (21) したがって、 AA-2I= A-2I (22) となることが分かる。
そこで(22)式の両辺に左から A を掛け算すると
A2A-2I =AA-2I = A-2I さらに両辺に左から A を掛け算すると A3A-2I =AA-2I = A-2I 以下同様に繰り返すと、Cayley-Hamilton の定理の帰結として AnA-2I =A-2I (23)
となることが分かる。
全く同様に、(21)式より、
AA-I= 2A-I (24) そこで(24)式の両辺に左から A を掛け算すると A2A-I =A·2A-I = 2AA-I = 22A-I さらに両辺に左から A を掛け算すると A3A-I =A·22A-I = 22AA-I = 23A-I 以下同様に繰り返すと、Cayley-Hamilton の定理の帰結として AnA-I =2nA-I (25)
となることが分かる。
上の考察で、例えば (22)式から A-2I という行列にとっては、行列 A は「1」のように見えるし、 (24)式から A-I という行列にとっては、行列 A は「2」のように見えると解釈することもできる。

 そこで、(23),(25)式の左辺をそれぞれ展開すると、
An+1- 2An= A-2I (26) An+1- An= 2nA-I (27)
となることが分かるから、(27)式から(26)式を引くことで、
An= 2nA-I -A-2I = 2n 2 -2 1 -1 - 1 -2 1 -2 = 2n+1-1 2-2n+1 2n-1 2-2n (28)
すると、(11),(28)式より
an an-1 = An-1 a1 a0 = 2n-1 2-2n 2n-1-1 2-2n-1 a1 a0
となることが分かる。
すなわち、(5)式の漸化式
an- 3a-1+ 2an-2 =0 n=2,3,4
という「定数係数の漸化式」の一般解は
an= 2n-1 a1+ 2-2n a0
という式で与えられることが分かる。

より一般に、行列 A の特性多項式 φAt が、
φAt= t-λ t-μ, λμ
というように、異なる二つの複素数 λ,μ C を用いて因数分解される場合には、CayleyHamilton の定理から
A-λI A-μI =O (29)
となることが分かるから、そこで (29)式を、
AA-μI =λA-μI AA-λI =μA-λI
というように二通りに書き直して、同様の議論を行なうことで、
An= λnA-μI- μnA-λI λ-μ (30)
となることが分かるから、後は、(30)式の右辺に、A や λ,μ などの具体的な数値を代入することで、An が求まることになる。

 ところで、これまで異なる二つの複素数を用いて因数分解される場合を考えてきたが、それでは、ただひとつの複素数を用いて因数分解される場合はどうなるだろうか?
 例えば、行列 A の特性多項式 φAt が、
φAt = t-λ2
というように、ただひとつの複素数 λR を用いて因数分解される場合には、CayleyHamilton の定理から
A-λI2=O
となる。A-λI は、2乗すると零行列になるベキ零行列であることに注意する。そこで、「スカラー行列」と「ベキ零行列」の和の形に変形して
A= λI+ A-λI  とすると An= λI+ A-λIn = λnI+ nλn-1 A-λI+ nn-12 λn-2 A-λI2+⋯+ A-λIn = λnI+ nλn-1 A-λI (31)
となることが分かるから、後は、(31)式の右辺に、A や λ などの具体的な数値を代入することで、An が求まることになる。