線形代数(7)

≪表現行列の変換公式≫

V,Wを2つの線形空間として f:VW という線形写像が与えられているときに、 線形空間V,W の基底を取り換えてそれぞれの線形空間の 「番地割り」の仕方を変えたときに線形写像 f の表現行列はどのように姿を変えるのだろうか? (dimRV=2,dimRW=3 の場合で考えてみよう。)

いま V の基底 {e1e2}W の基底 {f1f2f3} を勝手にひとつずつ取ってきて、これらの基底に関する線形写像 f:VW の表現行列を A と表すことにする。
そこでさらに VW の基底を
{e1e2} {e1'e2'}
{f1f2f3} {f1'f2'f3'}
というように取り換えたとして、これらの新しい基底に関する線形写像 f:VW の表現行列を A' と表すことにする。
すると、もともとの基底と新しい基底の間の関係は、適当な正則行列 PGL(2,R)QGL(3,R) を用いて
(e1'e2') = (e1e2) P  ……(1)
(f1'f2'f3') = (f1f2f3)Q  ……(2)
というように表わすことができる。

「基底」の変換

そこで問題は、「新番地割り」のもとでの表現行列 A' は「旧番地割り」のもとでの表現行列 A と「基底変換の行列」 P,Q を用いてどのように表せるか、ということになる。

ところで、線形写像 f:VW の表現行列を求めるには
(イ)  V の基底の元の行き先 f(e1),f(e2)W の「番地」を求める。
(⇒これらの「番地」を並べたものが表現行列A になる)
(ロ) 基底{ e1e2 }を用いた「番地割り」、VR2 のもとで
Vu= x1e1+ x2e2 x1 x2 R2
と対応しているときに、f(u)W の「番地」を  x1 x2 を用いて表わす
(⇒このとき
Wf(u)    A x1 x2 R2
と対応しているはず)
という2つの方法を考えることができる。
先ずは、(イ)の方法で考えてみよう。
いま W の基底{f1f2f3}を用いた「旧番地割り」のもとで f(e1),f(e2)W に割り振られる「旧番地」を
Wf(e1)= a11f1+ a21f2+ a31f3 a11 a21 a31 R3
Wf(e2)= a12f1+ a22f2+ a32f3 a12 a22 a32 R3
というように表わすとする。

すると、「旧番地割り」のもとでの表現行列A とは、これらの「旧番地」を並べてできる行列だから
A= a11 a12 a21 a22 a31 a32  ……(3)
というように表わされる。
ところで
f(e1)= (f1f2f3) a11 a21 a31
f(e2)= (f1f2f3) a12 a22 a32
より
(f(e1)f(e2))= (f1f2f3) a11 a12 a21 a22 a31 a32  ……(4)
したがって、(3)(4)式より「旧番地割り」のもとでの表現行列とは
(f(e1)f(e2))= (f1f2f3)A  ……(5)
となるような3行2列の行列A のことであると考える
ことができる。
全く同様に、「新番地割り」のもとでの表現行列とは
(f(e1')f(e2'))= (f1'f2'f3')A'  ……(6)
となるような3行2列の行列A' のことであると考えることができる。
したがって、いま問題は、「基底の間の関係式(1),(2)式と(5)式より(6)式が成り立つような3行2列の行列A' を求めよ」ということ。すなわち、(1),(2),(5)式から、e1,e2 と f1,f2,f3 を消去して e1',e2' と f1',f2',f3' の間の関係式を導きなさい、ということになる。

そこで まず(1)式  (e1'e2')= (e1e2)P における e1'e2' (f(e1')f(e2')) に「化かす」ことを考えてみる。いま P= a b c d と表わすことにすると、(1)式より
e1'= ae1+ce2 e2'= be1+de2  ……(7)
そこで(7)式の両辺に線形写像 f を施してみると
f(e1')= f(ae1+ce2)= af(e1)+cf(e2) f(e2')= f(be1+de2)= bf(e1)+df(e2)  ……(8)
行列の積で表わすと
(f(e1')f(e2')) = (f(e1)f(e2)) a b c d = (f(e1)f(e2)) P  ……(9)
こうして(1)式における における e1'e2' (f(e1')f(e2')) に「化かす」ことができたから、後は(2)(5)(9)式から e1,e2 と f1,f2,f3 を消去して e1',e2' と f1',f2',f3' の間の関係式を導きなさい、ということになる。
いま(9)式に(5)式を代入すると
(f(e1')f(e2')) = (f(e1)f(e2)) P = (f1f2f3)AP  ……(10)
ところで、Q は正則行列であることに注意して、(2)式の両辺に右からQ-1 を掛け算してみると
(f1'f2'f3')Q-1 = (f1f2f3)QQ-1 = (f1f2f3)I = (f1f2f3)
したがって、
(f1f2f3)=(f1'f2'f3')Q-1  ……(11)
よって(11)式を(10)式に代入することで
(f(e1')f(e2')) = (f1f2f3)AP = (f1'f2'f3')Q-1AP  ……(12)
したがって、(6)式(12)式より
A'=Q-1AP  ……(13)
となることが分かる。
次に(ロ)という方法にもとづいて考察してみよう。
まず V の元 uV に割り振られる「旧番地」と「新番地」の間の関係について考えてみる。
いま V の基底{ e1e2 }を用いた「旧番地割り」のもとで u に割り振られる「旧番地」を
Vu=x1e1+x2e2 x1 x2 (R2)
というように表わすとすると、 uV は行列の積を用いて
u= (e1e2) x1 x2  ……(14)
と表わすことができる。
ところで、P が正則行列であることに注意して(1)式の両辺に右から P-1 を掛け算してみると
(e1e2)= (e1'e2') P-1  ……(15)
そこで(15)式を(14)式に代入することで
u= (e1e2) x1 x2 = (e1'e2') P-1 x1 x2  ……(16)


一方、 uV の「新番地」は同様に
Vu=x1'e1'+x2'e2' x1' x2' (R2)
u=(e1'e2') x1' x2'  ……(17)
と表わすことができる。

そこで(16)式と(17)式を見比べてみると
x1' x2' = P-1 x1 x2  ……(18)
となることが分かる。
また(18)式の両辺に左から P を掛け算することで
x1 x2 = P x1' x2'  ……(19)
となることも分かる。

以上から、もともとの基底{ e1e2 }と新しく取り替えた基底{ e1'e2' }の間に
(e1'e2') = (e1e2)P   PGL(2,R)
という関係があるときに V の元 uV に割り振られる「旧番地」と「新番地」の間には
x1' x2' = P-1 x1 x2  ……(20
x1 x2 = P x1' x2'  ……(21)
という関係があることが分かる。

そこで問題は、上の「旧番地」と「新番地」の間の関係公式を用いて「新番地割り」のもとでの表現行列 A' が、「旧番地割り」のもとでの表現行列 A と基底変換の行列 P,Q を用いてどのように表わされるのか、ということになる。
いま「新番地割り」のもとで、
Vu x1' x2' ( R2)
というように対応しているとする。すると(21)式より uV に対応する「旧番地」は
Vu x1 x2 =P x1' x2' ( R2)  ……(22)
となる。

ここで f(u)W に対応する「旧番地」を
Wf(u) y1 y2 y3 ( R3)
と表わすとすると、表現行列の定義から
y1 y2 y3 =A x1 x2  ……(23)

したがって、(22)式を(23)式に代入することで
y1 y2 y3 =AP x1' x2'  ……(24)
となる。
さらに線形空間 W に対して(20)式の変換公式を適用すると f(u)W に対応する「旧番地」と「新番地」の間には
y1' y2' y3' =Q-1 y1 y2 y3  ……(25)
という関係がある。
よって(24)式を(25)式に代入することで f(u)W に対応する「新番地」は
Wf(u) = y1' y2' y3' =Q-1AP x1' x2' ( R3)  ……(26)
したがって(26)式から「新番地割り」のもとでの表現行列 A'
A'= Q-1AP  ……(27)
となることが分かる。

以上 dimRV=2dimRW=3 の場合で、(イ)(ロ)の方法にもとづいて考察してきたが、より一般に dimRV=ndimRW=m として
(e1'e2'en')= (e1e2en)PPGL(n,R)
(f1'f2'fm')= (f1f2fm)QQGL(m,R)
という式により VW の基底を
{e1,e2,,en}{e1',e2',,en'}
{f1,f2,,fm}{f1',f2',,fm'}
というように取り替えると、線形写像 f:VW の表現行列は
A A'= Q-1AP
というように「姿」を変える。