それでは、実際に行列式はどのように計算するのでしょうか?
( いま、n 行 n 列の n 次の正方行列の行列式を
と表記することもある。)
例えば、教科書的定義に基づいて、
を、n! 個の項で表わすこともできる。
ここで、
を具体的に求めてみよう。
(i) 「サラスの方法」
ところで、(1)式の行列式はつぎのようにも計算することができる。
(ii) 「余因子」を用いる
また、(1)式の行列式はつぎのようにも計算することができる。
(iii) 「基本変形」を用いる(itはt行目)
前回、行列式とは「符号つきの面積を対応させる関数」であり、このような関数は (イ),(ロ),(ハ)という三つの性質
(イ) 多重線形性:
(ロ) 歪対称性:
(ハ) 規格化条件:
で一意的に特徴づけられる、ということを見てきました。
そこで、実際に計算するにあたって、特に重要なことは、行列式の特徴である、(イ),(ロ)の性質を、しっかり理解することです。
いま、
これが、「サイズの大きな行列の行列式の計算」を「サイズがより小さな行列の行列式の計算」に帰着するための基本的な考え方です。
すると、教科書的な行列式の定義式は全く使わずに, 機械的に行列式の計算を進めることができる。
そこで、実際に、どのようにして行列式の計算が進むのかということを 3行3列の場合で見てみよう。
そこで、(4)式の右辺第一項に注目すると、そこに現われる
も
と分解して表わせることに注意して、
に関する線型性を用いると、
ところで、(5)式の右辺第一項は、(ロ)の「歪対称性」という性質から、0になることが分かるから、
となることが分かる。そこで、さらに、
を
と分解して、(6)式の右辺に同様の操作を行うと
したがって、(4)式の右辺第一項に現われる行列式は(6),(7)より
というように書き直せる、ということが分かる。さらに、第二項、第三項についても
と分解して、同様の操作を行うことで、
となることが分かる。
したがって、det A は(4),(8),(9)式より
というように、書き直せることが分かる。
そこで、さらに、(2),(3)式等の「基本的な原理」を適用すると、結局、
という式が得られる。
これが、具体的な計算例で行なった計算(ii)の「根拠」です。
ここでは、行列 A の一列目の列ベクトルに注目して、「一列目に関する行列式の展開式」を導出したが、同様の展開は, 他の列の列ベクトルに対しても行なうことができる。さらに、行列 A の n 個の行ベクトルに注目して、行ベクトルに対して、同様の考察を行なうことで、「行に関する行列式の展開式」を考えることもできる。
ところで、行列は、
〇 行(列)に関する基本変形
(a)ある二つの行(列)を入れ替える
(b)ある行(列)に別な行(列)の何倍かを足す
(c)ある行(列)を何倍かする(ただし、0倍することは許さないものとする)
という三種類の操作を施すことが許される、のであった。
それでは、行列に「基本変形」を施すことで、行列式はどのように変化するだろうか?
(a),(b),(c) というそれぞれのタイプの基本変形に対応した基本行列 E(a),E(b),E(c) は、
として、例えば、
というような形で与えられるわけだが、これらの行列の行列式を計算してみると
行列式の積は
特に、(b) のタイプの基本変形は行列式の値を変えないことが分かるから、このことを用いると、例えば(8)式も
というように簡単に導くことができる。
実際に行列式を計算するときには、いきなり、ある行やある列に関する展開を行なうのではなく、上のような基本変形を行や列に施して、ある行やある列になるべくたくさん 0 が出て来るような形に変形してから、その行やその列に関する展開を行なうと、計算が見やすくなるし、計算間違いも少なくなるかもしれません。