摘要ノート「資本論」(15)

第四章 貨幣の資本への転化

第二節 一般的定式の矛盾

単純商品流通 W-G-W と資本の流通 G-W-G’ との差異は、同じ対立する二つの過程(販売と購買)の順序が逆になっているということである。ところがただ順序が逆になっただけで、資本の流通は商品の流通とはまったくちがった性格をもつようになり、貨幣は資本に転化して剰余価値を生むのである。なぜ価値は剰余価値を生むようになるか?

とにかく、商品市場ではただ商品所持者が商品所持者に相対するだけであり、これらの人々がたがいに及ぼしあう力はただかれらの商品だけである。いろいろな商品の素材的な相違は、交換の素材的な動機であり、商品所持者たちを互いに相手に依存させる。というのは、彼らのうちのだれも自分自身の欲望の対象はもっていないで、めいめいが他人の欲望の対象をもっているのだからである。このような、諸商品の使用価値の素材的な相違のほかには、諸商品のあいだにはもう一つの区別があるだけである。すなわち商品の現物形態と商品の転化した形態との区別、商品と貨幣との区別である。したがって、商品所持者たちは、ただ、一方は売り手すなわち商品の所持者として、他方は買い手すなわち貨幣の所持者として、区別されるだけである。

流通のなかでは生産者と消費者とはただ売り手と買い手として相対するだけである。生産者にとっての剰余価値は、消費者が商品に価値よりも高く支払うと言うことから生ずる、と主張することは、商品所持者は売り手として高すぎる価格で売る特権をもっているという簡単な命題に仮面をつけるだけのことでしかない。売り手はその商品を自分で生産したか、またはその生産者を代表しているか、どちらかであるが、同様に買い手もまた彼の貨幣に表わされた商品を自分で生産したか、またはその生産者を代表しているか、どちらかである。だから、ここで相対するのは、生産者と生産者とである。彼らを区別するものは、一方は買い、他方は売る、ということである。商品所持者は、生産者という名では商品をその価値よりも高く売り、消費者という名では商品に高すぎる価格を支払うのだ、と言ってみても、それは、われわれを一歩も前進させるものではない。それゆえ、剰余価値は名目上の値上げから生ずるとか、商品を高すぎる価格で売るという売り手の特権から生ずるとかいう幻想を徹底的に主張する人々は、売ることなしにただ買うだけの、したがってまた生産することなしにただ消費するだけの、一つの階級を想定しているのである。・・・このような階級が絶えずものを買うための貨幣は、交換なしで、無償で、任意の権原や強力原にもとづいて、商品所持者たち自身から絶えずこの階級に流れてこなければならない。この階級に商品を価値より高く売るということは、ただで引き渡した貨幣の一部分を再びだまして取りもどすというだけのことである。

要するに、どんなに言いくるめようとしても、結局はやはり同じことなのである。等価物どうしが交換されるとすれば剰余価値は生まれないし、非等価物どうしが交換されるとしてもやはり剰余価値は生まれない。流通または商品交換は価値を創造しないのである。

商業資本の価値増殖がたんなる商品生産者からの詐取からではなく説明されるべきだとすれば、そのためには長い列の中間項が必要なのであるが、それは、商品流通とその単純な諸契機とがわれわれの前提になっているここでは、まだまったく欠けているのである。

貨幣の資本への転化は、商品交換に内在する諸法則にもとづいて展開されるべきであり、したがって等価物どうしの交換が当然出発点とみなされる。いまのところまだ資本家の幼虫でしかないわれわれの貨幣所持者は、商品をその価値どうりに買い、価値どうりに売り、しかも過程の終わりには、自分が投げ入れたよりも多くの価値を引き出さなければならない。彼の蝶への成長は、流通部面で行わなければならないし、また流通部面で行われてはならない。これが問題の条件である。ここがロドスだ、さあ跳んでみろ!

(注37) 読者は、ここでは、ただ、資本形成は商品価格が商品価値に等しい場合にも可能でなければならないということが言われているだけだということを、理解するであろう。資本形成は、商品価値からの商品価格の偏差によって説明することはできない。価格が価値から現実にずれているならば、まず価格を価値に還元して、すなわちこのような状態を偶然なものとして無視して、商品交換を基礎とする資本形成の現象を純粋な姿で眼前におき、その考察にさいしては本来の過程には関係のない撹乱的な付随的な事情に惑わされないようにしなければならない。なお、言うまでもなく、この還元はけっして単なる科学的な手続きではない。市場価格の絶え間ない振動、その上昇と低下は、互いに償いあい、相殺されて、おのずからその内的基準としての平均価格に還元されるのである。

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