摘要ノート「資本論」(28)

第四編 相対的剰余価値の生産

第十章 相対的剰余価値の概念

労働日の延長によって、生産される剰余価値を私は絶対的剰余価値と呼ぶ。これにたいして、必要労働時間の短縮とそれに対応する労働日の両成分の大きさの割合の変化とから生ずる剰余価値を私は相対的剰余価値と呼ぶ。

労働力の生産またはその価値の再生産に必要な労働時間は、労働者の賃金が彼の労働力の価値よりも低く下がるという理由によって減少しうるものではなく、ただこの価値そのものが下がる場合にのみ減少しうるのである。労働日の長さが与えられていれば、剰余労働の延長は必要労働時間の短縮から生ずるよりほかはなく、逆に必要労働時間の短縮が剰余労働の延長から生ずるわけにはゆかないのである。

労働力の価値を下げるためには、労働力の価値を規定する生産物、したがって慣習的な生活手段の範囲に属するかまたはそれに代わりうる生産物が生産される産業部門を、生産力の上昇がとらえなければならない。しかし、一商品の価値は、その商品に最終形態を与える労働の量によって規定されているだけではなく、この商品の生産手段に含まれている労働量によっても規定されている。…だから、必要生活手段を生産するための不変資本の素材的諸要素すなわち労働手段や労働材料を供給する諸産業で生産力が上がり,それに応じて諸商品が安くなれば、このこともまた労働力の価値を低くするのである。これに反して、必要生活手段も供給せずそれを生産するための生産手段も供給しない生産部門では、生産力が上がっても、労働力の価値には影響はないのである。

安くなった商品が労働力の価値を低くするのは、もちろん、その商品が労働力の再生産にはいる割合に応じて低くするだけである。必要生活手段の総計は、みなそれぞれ別々の産業の生産物であるまったくさまざまな商品から成っており、このような商品の一つ一つの価値は、いつでも労働力の価値の一加除部分をなしている。この価値は、その再生産に必要な労働時間が減るにつれて低くなるのであり、この労働時間全体の短縮は、かのいろいろな特殊な生産部門のすべてにおける労働時間の短縮の総計に等しい。われわれはこの一般的な結果を、ここでは、あたかもそれが各個の場合の直接的結果であり直接的目的であるかのように、取り扱う。ある一人の資本家が労働の生産力を高くすることによってたとえばシャツを安くするとしても、けっして、彼の念頭には、労働力の価値を下げてそれだけ必要労働時間を減らすという目的が必ずあるというわけではないが、しかし、彼が結局はこの結果に寄与するかぎりでは、彼は一般的な剰余価値率を高くすることに寄与するのである。資本の一般的な必然的な諸傾向は、その現象形態とは区別されなければならないのである。

こうして、改良された生産様式を用いる資本家は、他の同業資本家に比べて1労働日中のより大きい一部分を剰余労働として自分のものにする。彼は、資本が相対的剰余価値の生産において全体として行なうことを、個別に行なうのである。しかし、他方、新たな生産様式が一般化され、したがってまた、より安く生産される商品の個別的価値とその商品の社会的価値との差がなくなってしまえば、あの特別剰余価値もなくなる。労働時間による価値規定の法則、それは、新たな方法を用いる資本家には、自分の商品をその社会的価値よりも安く売らざるをえないという形で感知されるようになるのであるが、この同じ法則が、競争の強制法則として、彼の競争相手たちを新たな生産様式の採用に追いやるのである。こうして、この全過程を経て最後に一般的剰余価値率が影響を受けるのは、生産力の上昇が必要生活手段の生産部門をとらえたとき、つまり、必要生活手段の範囲に属していて労働力の価値の要素をなしている諸商品を安くしたときに、はじめて起きることである。

商品の絶対的価値は、その商品を生産する資本家にとっては、それ自体としてはどうでもよいのである。彼が関心を持つのは、ただ商品に含まれていて販売で実現される剰余価値だけである。剰余価値の実現は、おのずから、前貸しされた価値の補填を含んでいる。ところで、相対的剰余価値は労働の生産力の発展に正比例して増大するのに、商品の価値は同じ発展に反比例して低下するのだから、つまりこの同じ過程が商品を安くすると同時に商品に含まれる剰余価値を増大させるのだから、このことによって、ただ交換価値の生産だけに関心をもっている資本家がなぜ絶えず商品の交換価値を引き下げようと努力するのかという謎が解けるのである。

労働の生産力の発展による労働の節約は、資本主義的生産ではけっして労働日の短縮を目的としてはいないのである。それは、ただ、ある一定の商品量の生産に必要な労働時間の短縮を目的にしているだけである。労働の生産力の発展は、資本主義的生産のなかでは、労働日のうちの労働者が自分自身のために労働しなければならない部分を短縮して、まさにそうすることによって、労働者が資本家のためにただで労働することのできる残りの部分を延長することを目的としているのである。

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