摘要ノート「資本論Ⅱ」(34)

第三編 社会的総資本の再生産と流通

第二十章 単純再生産

第五節 貨幣流通による諸転換の媒介

資本家階級全体について見れば、資本家階級は自分の剰余価値の実現のために(または不変資本も可変資本も含めて自分の資本の流通のためににも)自分で貨幣を流通に投ずるよりほかはない、という命題は、単に逆説的でないだけではなく、全機構の必然的な条件として現われる。なぜならば、ここにはただ二つの階級、すなわちただ自分の労働力を処分することができるだけの労働者階級と、社会的生産手段をも貨幣をも独占している資本家階級とがあるだけだからである。商品に含まれている剰余価値の実現のために必要な貨幣をまず第一に労働者階級が自分の資力から前貸しする、とでも言えば、それこそ逆説であろう。だが、個別資本家がこの前貸をするのは、いつでもただ、自分が買い手として行動するという形で、すなわち、ただ、消費手段の買い入れに貨幣を支出するかまたは労働力であれ生産手段であれ自分の生産資本の買い入れに貨幣を前貸しするという形で、するのである。彼はいつでも等価と引き換えにでなければ貨幣を手放さない。彼は、ただ、自分が流通に商品を前貸しするのと同じやり方で流通に貨幣を前貸しするだけである。どちらの場合にも、彼は貨幣または商品の流通の出発点として行動するのである。

現実の成り行きは二つの事情によってわかりにくくされる。
(1)産業資本の流通過程では商業資本(その第一の形態はつねに貨幣である。というのは商人そのものは[生産物]や[商品]は生産しないのだから)や貨幣資本が、特別な種類の資本家が行なう操作の対象として、現われるということ。
(2)剰余価値-それは第一番にはつねに産業資本家の手のなかになければならない-がいろいろな範疇に分かれ、これらの範疇に担い手として産業資本家のほかに土地所有者(地代の場合)や高利貸(利子の場合)などが現われ、また政府やその役人や金利生活者などが現われるということ、これらの連中は産業資本家にたいして買い手として現われるのであってそのかぎりでは産業資本家の商品の換金者として現われる。彼らもそれぞれ[貨幣]を流通に投ずるのであって、産業資本家はこの貨幣を彼らから受け取るのである。これについていつでも忘れられているのは、彼らはこの貨幣をどんな源泉から最初に受け取ったのか、また絶えず繰り返し受け取るのか、ということである。

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