摘要ノート「資本論Ⅱ」(28)

第三編 社会的総資本の再生産と流通

第十八章 緒論

第一節 研究の対象

これまでの構成と考察
第一部では資本主義的生産過程が個別的な過程としても再生産過程としても分析された。すなわち、剰余価値の生産と資本そのものの生産とが分析された。資本が流通部面のなかで行う形態変換と素材変換は、ただ前提されただけで、それ以上に詳論はされなかった。つまり資本家は一方では生産物をその価値どおりに売り、他方では過程を新たに始めるかまたは連続して行なうための物的生産手段を流通部面のなかで見いだすということが前提されたのである。われわれが第一部でかかわりをもたなければならなかった流通部面内の唯一の行為は、資本主義的生産の根本条件としての労働力の売買だったのである。

この第二部の第一編では、資本がその循環中にとるいろいろな形態と、この循環そのもののさまざまな形態とが考察された。第一部で考察された労働期間に今度は流通期間が加わる。

第二編では、循環が周期的な循環として、すなわち回転として考察された。一方では、資本の成分(固定資本と流動資本)が違うのにしたがって、それぞれの成分が諸形態の循環を行なう時間が違い、その仕方が違うということが示された。他方では、労働期間や流通期間の長さの相違の条件となる諸事情が研究された。循環期間やその諸成分のいろいろな割合が生産過程そのものの規模や剰余価値の年率に及ぼす影響が明らかにされた。じっさい、第一編では、資本がその循環中に絶えずとっては捨てる相続く諸形態がおもに考察されたとすれば、第二編では、諸形態のこの流れと連続とのなかで、与えられた大きさの一資本が、その割合は変わるにしても同時に生産資本、貨幣資本、商品資本という別々の形態に分かれ、したがってこれらの形態が互いに入れ替わるだけではなく、総資本価値のいろいろな部分が絶えずこれらのさまざまに違った状態で相並んで存在し機能しているということが考察されたのである。ことに、貨幣資本は、第一部では示されなかった特色をもって現われた。一定の諸法則が発見されたが、それらの法則によれば、与えられた大きさの一つの生産資本を絶えず機能させておくためには、与えられた一資本の大小さまざまの成分が回転の諸条件に応じて絶えず貨幣資本の形態で前貸しされ更新されなければならないのであった。

しかし、第一編でも第二編でも、問題にされたのは、いつでも、ただ、一つの個別資本だけだったし、社会的資本の一つの独立化された部分の運動だけだった。

しかし、個別的諸資本の循環は、互いにからみ合い、互いに前提し合い、互いに条件をなし合っているのであって、まさにこのからみ合いのなかで社会的総資本の運動を形成するのである。単純な商品流通の場合に一商品の総変態が商品世界の諸変態の列の一環として現われたように、ここでは個別資本の変態が社会的総資本の諸変態の列の一環として現われるのである。しかし、単純な商品流通はけっして必然的に資本の流通を含んではいなかったが-というのはそれは資本主義的でない生産の基礎の上でも行なわれうるのだから-、すでに述べたように、社会的総資本の循環は、個別資本の循環にははいらない商品流通、すなわち資本を形成しない商品の流通をも含んでいるのである。

そこで、今度は、社会的総資本の構成部分としての個別的諸資本の流通過程(その総体において再生産過程の形態をなすもの)が、したがってこの社会的総資本の流通過程が、考察されなければならないのである。

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