≪三項間漸化式の公比≫
三項間漸化式を解く場合、特性方程式を用いた解法や二つの項の差をとってが学校で習う解き方ですが、解いた後でもそれでは<公比>はどこにあるのか?など釈然としないところがあります。そこのところを考察します。
まずは等比数列の復習から始めます。
(=5)万円を年利 2% で定期預金として預けた場合のその後の預金額がどうなるか、を考える。すると n 年後は
……(1)
前年の預金額
となる。
したがって(1)の漸化式を満たす数列の一般項は
…(2)
具体的には、
万円である。
上と同じタイプの漸化式を「一般的な形」で考えると
等比数列の漸化式は
…(3)
そしてその一般項は
…(4)
このように、等比数列の
一般項
は、
と
という二つの
数を用いて具体的に表わせるわけですが、
のことを等比数列の
公比と呼び、
のこと
を等比数列の初項と呼ぶ。
また、より拡張して考えると
…(5)
というように等比数列の漸化式を二項間から三項間に拡張した漸化式を考えることができる。
ところで(3)式を
…(6)
という形に書き直してみると、(6)式は隣り合う2つの項の関係を表している式であると考えることができるので<2項間漸化式>とも呼ばれる。
一方(5)式は
…(7)
は隣り合う3つの項の関係を表している式であると考えることができるので、このような漸化式を<三項間漸化式>と呼ぶ。
ここからは、<三項間漸化式>具体的に
…(8)
として考えてみます。
(8)式の漸化式を(3)式と見比べてみると随分難しくなったように見える。(3)式の漸化式が分かりやすく感じるのは「
から
にというように隣の数字に移るたびに
倍される
」という漸化式の表している意味が分かりやすいからであると考えられる。一方(8)式の漸化式は例えば「
の5倍から
の6倍を引いたものが
になる
」というように式自体の意味はハッキリしているものの、それが一体何を意味しているのか、ということがよくわからない気がする。
すなわち(8)式の漸化式では、
と
という
「2つの数」から
という「一つの数」が決まる、という形で表されているために、次のステップに進むときに何が起きているのか、ということが少し分かりにくくなっている、ということが考えられる。
そこで(8)式の漸化式を
『
と
という
「2つの数」から
という「一つの数」が決まる』
と読まずに『わざわざ
を付け加えて
と
という
「2つの数」から
と
という「2つの数」が決まる
』と読んでみるとどうなるか、ということがここでのアイデアです。
すなわち(8)式の漸化式に
…(9)
という「当たり前」の式をわざわざ付け加えて
…(10)
という二本の式として漸化式を読んでみる。すると(10)式は行列の記法を用いて
となるから
…(11)
と表せる。そこで
と置き換えてみると (11)式は
…(12)
という簡単な形で表せることがわかる。
以上より(10)式は行列の記法を用いた漸化式に書き直すと
…(13)
と書き表わすことができる。
ところで等比数列の漸化式
…(14)
と見比べてみると
というように文字は置き換わっているが本質的には同じタイプの方程式であることがわかる。すなわち(13)式は
という「数列」が公比
の「等比数列」であることを表している。
ここで(13)式の漸化式は
、
…という無限個の式を表しているが、等比数列のときと同様に
となることがわかり、順番に「公比」が
の「等比数列」の一般項は
…(15)
と予想される。
こうして三項間漸化式が行列の考えを用いることで、一番簡単な場合である等比数列の場合とまったく同様にして「形式的」には(15)式のように解けてしまうことが分かる。したがっていまや漸化式を解く問題は、行列
のn乗
を求める問題に帰着する。
<ケ―リー・ハミルトンの定理>
2行2列の正方行列
としたとき
という多項式を行列
の特性多項式(固有多項式)と呼ぶ。
余談ですが、ここで
は英語の
にあたるギリシャ文字で「ファイ」
このようにある多項式が「単に数ある多項式の中の1つの例」ということでなく「それ自体でとても意味のある(他とは区別される)多項式」であることを示すために
というように「英語」を「ギリシャ語」に格上げして表現することがある。したがって「ギリシャ文字」の関数が出てきたら、「あ、これは特別の関数だな」として読んでもらうとより記憶にとどまるかもしれない。
今の場合には「行列
にとっての特別な多項式」ということを示すために
に
を添字して
と表現してある。
このとき「ケ―リー・ハミルトンの定理」の主張は、
この多項式
の変数
を行列
で置き換えた結果が零行列になる。つまり
が成り立つというのがケーリー・ハミルトンの定理の主張である。
--- proof ---
--- end ---
すなわち行列
の特性多項式
は行列
を根にもつ
…(16)
である。
ところで(16)式の両辺を
に施すと
となるが
となり、一方
として
…(17)
となる。ここで
であるから、(17)式は
という2つの式を表している。
また(16)式の両辺を
に施すと
これは前と同様に
となり、
という2つの式を表している。
このように「ケ―リー・ハミルトンの定理」は数列の漸化式を生み出す源になっていることがわかる。
<行列
のn乗
を求める>
それでは具体的に
はどのようにして求まるか。
まず行列の世界でも
という分配の法則が成り立つ
また
がどんな数であっても
というスカラー倍が成り立つ。
すると行列の世界でも数のときと同様に普通に因数分解ができる。
は、因数分解すると
…(18)
となる。すると(18)式は
より
…(19)
となることが分かる。そこで(19)式の両辺に左から
を掛け算すると
(19)式より
となる。さらに両辺に左から
を掛け算すると
以下同様に繰り返すと、<ケーリー・ハミルトンの定理>の帰結として
…(20)
となることが分かる。
そこで次に、今度は「ケーリー・ハミルトンの定理」を
…(21)
という形で表して、全く同様の計算を行うと
…(22)
となることが分かる。
そこで同様に(22)式の両辺に左から
を掛け算し、同様に繰り返すと
…(23)
となる。
したがって(20),(23)式から
に対して
…(24)
…(25)
という2つの式が成り立つ。
ここで分配法則などを用いて(24),(25)式の左辺のカッコをはずすと
…(26)
…(27)
(27)から(26)を引くと
…(28)
いま
より
…(29)
…(30)
そこで(28)式に(29),(30)をそれぞれ代入すると、
…(31)
こうして
を具体的に求めることができる。
<漸化式を満たす数列の一般項>
ところでここまでの道程は
…(32)
という三項間漸化式が行列の記法を用いることで
として
…(33)
というように簡明な形に表せることに注目して(33)式を
…(34)
というように形式的に解いた。
よって(31)(34)式から
したがって(32)式の漸化式を満たす数列の一般項
は
となることが分かる。