Jordan 標準形 (3)

<「ベキ零行列」のJordan 標準形 >

(イ) Jordan 標準形の存在

n 次の正方行列 A が「ベキ零行列」であるとすると、行列 A は、Jordan 細胞を用いて

P-1AP= Jr10 0 Jr20 0Jrs0 (1) ⁡( ただし、 r1+r2+⋯+ rs=n )

と表わすことができるような行列 P が存在し、「ベキ零行列」は Jordan 標準形へ変換することができる。

いま、A はベキ零行列なので、

Ak=O Ak-1O (2)  となる kN が存在する。
前回<jordan 細胞>では、k=1,k=n のときを主に考察した。
k=1 のとき A1=O=0 P=1  として、P-1AP =0=J10 k=n のとき An=O P= Ak-1e, Ak-2e,⋯, Ae.e  として、P-1AP =Jn0

そこで、今回は、2k<n とした場合、どうなるかを、より詳しくみていこう。

いま、Ak-1eO  となる eCn を一つ固定し
V=⁡⟨ Ak-1e, Ak-2e,⋯, Ae.e⁡⟩   とする。  また、A -不変空間 W を W=⁡⟨ ak+1, ak+2,,⋯, an⁡⟩  として、 Cn = VW  となるようにとる。  ここで、 Q= Ak-1e ,⋯,Ae.e, ak+1,⋯, an  とすると、 Q-1AQ = Jk0 O OA' ↕ k  ↕ n-k (3)  となることが分かる。

いま、k2 であるから、(n-1)次で(1)式が成り立つ、と仮定しよう。

ところで、(1)式を(3)式に適用するためには、A' は「べき零行列」でなければならない。そのことを確認しよう。


Q-1AQ n = Jk0 O OA' n Q-1AnQ = Jk0n O OA'n An=O より  Q-1AnQ =O  したがって、 A'n =O  すなわち、 A' も、「べき零行列」である。
すると、(1)を適用して、
R-1A'R= Jr10 0 Jr20 0Jri0 (4)
と表わすことができるような行列 R が存在する。そこで、
P=Q Ek O OR  とすると、 P-1AP= Q Ek O OR -1 A· Q Ek O OR = Ek O OR -1 Q-1A· Q Ek O OR  (3)式より = EkO OR-1 Jk0 O OA' Ek O OR = Jk0 O O R-1A' Ek O OR = Jk0 O O R-1A'R  (4)式より = Jk0 Jr10 0 Jr20 0Jri0

(ロ) Jordan 標準形の一意性

(イ)の考察で、「べき零行列」は ある行列 P を用いて Jordan 標準形に変換できることは分かったが、それでは、違う行列 Q を用いると Jordan 標準形も違う形になるのだろうか?
 答えは 「Jordan 行列は Jordan 細胞の並べ方を除けば ただ一通りに定まる」
それは、行列 P,Q によってでなく、べき零行列 A の性質のみによって決まる。
そのことを確認しよう。
Jordan 行列における j 次 Jordan 細胞の個数を
mj 1j<k  とし、 Ak-1O Ak=O  として、 ri= rankAi 0i<k-1  を考える。
ここで、j 次 Jordan 細胞の2乗、3乗を計算すると、例えば、
J40= 0100 0010 0001 0000 rankJ40=3 J420= 0010 0001 0000 0000 rankJ420=2
のように、 1 が並ぶ斜線が一つずつ上に上がっていくことが分かる。
したがって、
rankJji0= j-i0i<j 0ij  よって、 ri= j=i+1k mj j-i 0i<k-1  すると、 rk-1=mk rk-2= mk-1 +2mk rk-j= mk-j+1+ 2mk-j+2 +⋯+j-1 mk+jmk r1= m2+ 2m3+⋯+ k-1mk r0= m1+ 2m2+⋯+ kmk
を得る。これらの式を上から順に見れば、 mkmk-1 m1 を順に、 rk-1 rk-2 r1r0 によって決まることが分かる。
すなわち、Jordan 細胞の個数は rankAi のみによって決まる。つまり、A の性質によってのみ決まることが分かる。

(ハ) Jordan 細胞の個数

それでは、Jordan 細胞の個数はいくつあるのだろうか。

(ロ)の考察で、
ri= rankAi 0i<k-1  とすると、 rk-1=mk rk-2= mk-1 +2mk rk-3= mk-2 +2mk-1 +3mk  であるから、 mk-2 = rk-3 -2mk-1 -3mk = rk-3 -2rk-2-2mk -3mk = rk-3 -2rk-2 +mk = rk-3 -2rk-2 +rk-1  ここで、j=k-2  とおくと、 mj= rj+1 -2rj +rj-1 j=23k-2
つまり、Jordan 行列の j 次 Jordan 細胞の個数 mj は、

mj= rankAj+1 -2rankAj + rankAj-1 j=123k
として表わされる。

(二) Jordan 細胞の次数

(ロ)の考察より、
Ak=O, Ak-1O
を満たす k 2kn は Jordan 細胞の次数である。



さて、n 次正方行列 A の固有方程式が λC を n 重解としてもつ場合を考えてみよう。
仮定より、行列 A の特性(固有)多項式は
ΦAx= detxI-A =x-λ n  したがって、 N=A-λI  とおくと、 ΦNx= detxI-N = detxI-A +λI = detx+λ I-A = ΦAx+λ = x+λ-λ n = xn  よって、Cayley-Hamilton の定理より ΦNN=O  一方、 ΦNN =Nn  なので、結局、 Nn=O  となるので、N は「べき零行列」である。
すると、(イ)より、P-1NP は、Jordan 行列となる。
したがって、
J=P-1NP  とすると、 P-1AP= P-1N+λIP = P-1NP +λI = J+λI
となるので、P-1AP=Jnλ すなわち、Jordan 行列で表わされる、ことが分かる。