Jordan 標準形 (1)

< 行列のべき乗と多項式展開 >

いま、
fx=xn  とすると、fx+y は、
fx+y= x+yn (1)
これを、二項展開で表わすと
fx+y = n 0 xny0 + n 1 xn-1y1 + n 2 xn-2y2 +⋯+ n n x0yn = xn+ nxn-1y+ nn-12 xn-2y2 +⋯+ yn (2)

そこで、yΔx のように考えると、(2)式は x をひとつ固定したときの「y の関数」をベキの形で表わしたもの、とみることができる。
すると、(2)式の二項展開は、
fx+y = fx+ fxy+ fx 2! y2 +⋯+ fnx n! yn (3)
という「Taylor 展開」に他ならない、ということが分かる。
例えば、
fx= 1+2x+3x2  とすると、「Talor 展開」は fx =2+6x fx =6  より、 fx+ fxy+ fx 2! y2 = 1+2x+3x2+ 2+6xy+ 3y2 (4)  となることが分かるが、(4)式を、 fx+y= 1+2x+y+ 3x+y2 = 1+2x+y+ 3x2+2xy+y2 = 1+2x+3x2+ 2+6xy+ 3y2
というように「多項式 fx+y の各項を二項展開して、y について整理して得られた式である」と考えることもできる。
さて、いま、
(イ) A= λ10 0λ1 00λ (ロ) B= λ10 0λ0 00λ
として、(イ)(ロ)それぞれを用いて、多項式を行列展開することを考えてみよう。

まず、(イ)の場合、

N= 010 001 000  とすると、行列 A は、 A=λI+N  として、 An=λI+Nn  を考えることができる。   ところで、「行列の積」では一般に  XYYX  であるが、もし、 XY=YX
が成立するならば、X+Yn は(2)式同様
X+Yn = Xn+ nXn-1Y+ nn-12 Xn-2Y2 +⋯+ Yn   のように表わされるはずである。そこで X=λI  , Y=N  とすると、 λI·N= N·λI  すなわち、λI と N  は可換であるから、  二項展開すると An= λI+ Nn = λnI+ nλn-1N + nn-12 λn-2N2 +⋯+ Nn (5)  いま、Nk は、 N2= 010 001 000 010 001 000 = 001 000 000 N3= 001 000 000 010 001 000 = 000 000 000  したがって、 Nk=O k3  となることに注意すると、(5)式は An= λnI+ nλn-1N + nn-12 λn-2N2 = λn· 100 010 001 + nλn-1· 010 001 000 + nn-12 λn-2 001 000 000 = λn nλn-1 nn-12 λn-2 0λn nλn-1 00 λn
のように表わされる、ことが分かる。

そこで、いま、正方行列 A は、
A=λI+N A2= λ2I+ 2λN+ N2 A3= λ3I+ 3λ2N+ 3λN2
を考えることができるから、勝手な多項式

fx= a+bx+ cx2+ dx3 (6)

に対して、変数 x のところに A という行列を代入して

fA= aI+bA+ cA2+ dA3 (7)

という行列を考えることができる。

fA= aI+bA+ cA2+ dA3 = aI+bλI+N + cλ2I+ 2λN+ N2 + dλ3I+ 3λ2N+ 3λN2 = a+bλ+ cλ2+ dλ3 I + b+2cλ +3dλ2 N + c+3dλ N2

したがって、(7)式は

fA= a+bλ+ cλ2+ dλ3 b+2cλ +3dλ2 c+3dλ 0 a+bλ+ cλ2+ dλ3 b+2cλ +3dλ2 00 a+bλ+ cλ2+ dλ3 (8)
となることが分かる。そこで、行列の成分をよくよく考えると、

(6)式より
fλ= a+bλ+ cλ2+ dλ3 fλ= b+2cλ +3dλ2 fλ= 2c+6dλ  となることに注意すると、(8)式は fA= fλ fλ fλ 0 fλ fλ 00 fλ = fλI+ fλN+ 12fλ N2 (9)

のように表わせることが分かる。
 そこで、一般の多項式

fx= a0+ a1x+ a2x2+⋯+ anxn = k=0 n akxk
の場合を考えてみると、上の議論より、勝手な自然数 kN に対して

Ak= λkI+ kλk-1N + kk-12 λk-2N2

というように表わせることが分かるから、

fA= a0I+ a1A+ a2A2+⋯+ anAn = k=0 n akAk = k=0 n ak λkI+ kλk-1N + kk-12 λk-2N2 = k=0 n ak λk ·I+ k=0 n kak λk-1 ·N + 12 k=0 n kk-1ak λk-2 ·N2  そこで、 fλ= k=0 n akλk fλ= k=0 n kakλ k-1 fλ= k=0 n kk-1akλ k-2  となることに注意すると、 fA= fλI+ fλN+ 12f λN2 = fλ fλ 12f λ 0fλ fλ 00 fλ (10)
となることが分かる。

一方、(ロ)の場合は、

N'= 010 000 000 とすると、行列 B は B=λI+N'
と表わすことができる。そこで、Bn を考えるに、λI と N' は可換であることに注意 して、λI+N'n を二項展開してみると、

Bn= λI+ Nn = λnI+ nλn-1 N + nn-1 2 λn-2 N2 +⋯+ Nn

 いま、Nk を計算すると、
N2= 010 000 000 010 000 000 = 000 000 000  したがって、 Nk=O k2  となることに注意すると、
Bn= λnI+ nλn-1 N = λn nλn-1 0 0λn 0 00 λn
となることが分かる。そこで、(イ)の場合と同様に考えると、多項式 fx に対して

fB= fλI+ fλ N = fλ fλ 0 0fλ 0 00 fλ (11)
となることが分かる。

このように、ある行列をスカラー行列 λI とベキ零行列 N の和に分解すると、これらの行列に対しては、nN,fxCx として、比較的簡単な計算で、直接、An や fA などの行列を求めることができる。その意味で, これらの行列も「十分見やすい形をしている」と考えることができる。そこで, このように対角線の一段上だけに 1 がいくつか登場することを許すような「一般化された対角行列」も「見やすい形の行列」の仲間に入れるということが考えられた. このような「一般化された対角行列」のことを Jordan 標準形と呼ぶ。