補論・核・像の基底

≪核(Kernel)、像(Image)の基底を求める≫

m行n列の行列 A に対して、A を掛け算すると 0Rm になるような Rn のベクトル全体の集合を、

KerA={uRn | Au=0} (1)

と表わし、行列 A の「核(Kernel)」と呼ぶ。
 また、Rn のベクトル uRn を用いて、Au という形で表わせるような Rm のベクトル全体の集合を、

ImA={AuRm | uRn} (2)

と表わし、、行列 A の「像(image)」と呼ぶ。このとき、KerA,ImA は、それぞれ、Rn ,Rm の線型部分空間になる。

ところで、いま、与えられた行列 A を、行に関する基本変形や、列に関する基本変形を用いて

A  行に関する基本変形  A~ (3) A  列に関する基本変形  A^ (4)

というように変形したとしよう。すると、「行や列に関する基本変形を施すこと」は、「対応する基本行列を左や右から掛け算すること」であると解釈することができるから、(3)、(4)式より、適当な基本行列 E1E2EsF1F2Ft を用いて、

A~= Es E2E1A A^=A F1F2Ft  というように表わせることが分かる。いま、 P= Es E2E1  ,  Q= F1F2Ft
と表わすことにすると、P,Q は正則行列であり、行列 A~,A^ は、それぞれ、
A~=PA  ,  A^=AQ
というように表わすことができる。
このとき、P は m 行 m 列の行列であり、Q は n 行 n 列の行列であることに注意する。

そこで、基本変形した行列 A~,A^ の KerA~, ImA^ がどうなるか、を考えてみよう。

KerA~ の場合>

いま、u'KerA~ を、勝手にひとつ取ってきたとすると、KerA~ の定義から、

A~u' =0  行列 A~ は A~=PA  より、 A= P-1A~  と表わせることに注意する。  そこで、Au'  を考えると Au'=( P-1A~⁡) u' = P-1⁡(A~ u'⁡) = P-10 =0  よって、 u'KerA  となることが分かる。したがって、 u' KerA~    u' KerA  すなわち、 KerA~ KerA  となることが分かる。  一方、uKerA を、勝手にひとつ取ってきた場合 Au =0 A~u =(PA⁡) u = P⁡(Au⁡) =0  よって、 u KerA    u KerA~ KerA KerA~  以上の議論から KerA~= KerA (5)

となることが分かる。

ImA^ の場合 >

いま、vImA^ を、勝手にひとつ取ってきたとすると、ImA^ の定義から

v=A^u*  となるような u* Rn が存在する。  いま、行列 A^ は、 A^=AQ ⁡(Q はn行n列⁡)  であることに注意すると v=A^u* = ⁡(AQ⁡)u* = A⁡(Qu*⁡)  そこで、 u= Qu*  とすると、 v=Au  よって、 vImA  したがって、 vImA^    vImA  となることが分かるから、 ImA^ImA  全く同様にして、 ImAImA^  となることも分かるから、 ImA^=ImA (6)

となることが分かる。

それでは、以上の考察のもとに、具体的事例で KerA, ImA の基底を求めてみよう。


A= 3-111 11-13 2002

KerA の基底を求める>

まず、KerA について考えてみる。そのために、行列 A に対して行変形のみを施して「精一杯の見やすい形」に変形することを考えてみる。(r数字は行)

A= 3-111 11-13 2002 ↓(r1r2⁡) 11-13 3-111 2002 ↓(r2-r13⁡) ↓(r3-r12⁡) 11-13 0-44-8 0-22-4 ↓(r21/4⁡) ↓(r31/2⁡) 11-13 0-11-2 0-11-2 ↓(r3-r2⁡) 11-13 0-11-2 0000 ↓(r1+r2⁡) 1001 0-11-2 0000 ↓(r2-1⁡) 1001 01-12 0000

そこで、

A~= 1001 01-12 0000  として、 KerA~={ uR4 | A~u=0 }  の基底を求めてみよう。

 いま、uR4

u= x y z w  とすると、 A~u= 1001 01-12 0000 x y z w = x+w y-z+2w 0 A~u= 0 x+w=0 y-z+2w=0 z=s,w=t とすると、 u= x y z w =s 0 1 1 0 +t -1 -2 0 1 s,tR (7)  したがって、 u1= 0 1 1 0 u2= -1 -2 0 1  が KerA~  の基底候補

そこで、u1, u2 が KerA~ の基底になることを確認しよう。
 まず、⁡{u1, u2⁡} が KerA~ の基底であるための条件は

(イ) 勝手な元 uKerA~ に対して
u= su1+ tu2
   となるような実数 s,tR が存在する
(ロ) s,tR として
0= su1+ tu2 s=t=0
  となる。

という条件が満たされることである。 このうち、(イ)という条件は (7)式より明らかであるので、(ロ)について検討してみよう。

 いま、 s,tR  として、 0= su1+ tu2
であるとする。このとき、右辺のベクトルを成分を用いて具体的に書き下してみると、
su1+ tu2= s 0 1 1 0 +t -1 -2 0 1 = -t s-2t s t  したがって、 0 0 0 0 = -t s-2t s t  を意味しているから、 s=t=0  となることが分かる。

以上から、(イ)、(ロ)という二つの条件が満たされることが分かるから、⁡{u1,u2⁡} は、KerA~ の基底となることが分かる。また、(5)式を考慮すると、KerA の基底として、⁡{u1,u2⁡} が取れることが分かる。特に、

dimRKerA =2

となることも分かる。

ImA の基底を求める>

そのために、行列 A に対して列変形のみを施して「精一杯の見やすい形」に変形することを考えてみる。(c数字は列)

A= 3-111 11-13 2002 ↓(c1c3⁡) 1-131 -1113 0022 ↓(c2+c1⁡) ↓(c3-c13⁡) ↓(c4-c1⁡) 1000 -1044 0022 ↓(c4-c3⁡) 1000 -1040 0020 ↓(c31/2⁡) 1000 -1020 0010 ↓(c2c3⁡) 1000 -1200 0100

そこで、
A^= 1000 -1200 0100  として、 ImA^=⁡{A^uR3 | uR4⁡}
の基底を求めることを考えてみる。いま uR4
u= x y z w  とすると、A^uR3 は A^u= 1000 -1200 0100 x y z w =x 1 -1 0 +y 0 2 1 +z 0 0 0 +w 0 0 0 =x 1 -1 0 +y 0 2 1  となることが分かるから v1= 1 -1 0  ,  v2= 0 2 1
として ⁡{v1,v2⁡} が ImA^ の基底になると思われる。


 まず、⁡{v1, v2⁡} が ImA^ の基底であるための条件は

(イ) 勝手な元 vImA^ に対して
v= xv1+ yv2
   となるような実数 x,yR が存在する
(ロ) x,yR として
0= xv1+ yv2 x=y=0
  となる。

という条件が満たされることであるが、KerA~ の場合と同様の考察を行なうことで、条件が満たされることを確認できる。すると、(6)式より ImA の基底として、⁡{v1,v2⁡} が取れることが分かる。特に、

dimRImA =2

となることも分かる。

以上みてきたように、行列の基本変形によって、KerA , ImA の基底を個別に求めることができるが、皆さんの中には KerA の基底の時点で一緒に ImA の基底を習うか習った?かもしれない。 そこでは、表現行列 A の列ベクトルの一次独立性に重点が置かれて、像の基底としての性質がスッキリしない、という印象を持たれたかもしれない、そこで、そのことを少し考えてみよう。

いま、行列 A を例題と同じく

A= 3-111 11-13 2002  として、列ベクトルを v1= 3 1 2 , v2= -1 1 0 , v3= 1 -1 0 , v4= 1 3 2 R3  と表わし、uR4 を u= x y z w  と表わすことにする。  すると、 Au= v1 v2 v3 v4 x y z w = xv1+ yv2+ zv3+ wv4 (8)  したがって、ImA は ImA={ xv1+ yv2+ zv3+ wv4 R3  | xyzw R } (9)  というように表わせる。  そこで、ImA の勝手な元 v が v= xv1+ yv2+ zv3+ wv4 xyzw R
という形に表わせるということに注目して、⁡{v1v2v3v4 } が、ImA の基底になるかどうかということを考えてみることにする。

すなわち、

(イ) 勝手な元 vImA に対して
v= xv1+ yv2+ zv3+ wv4
   となるような実数 xyzwR が存在する
(ロ) xyzwR として
0= xv1+ yv2+ zv3+ wv4 x=y=z=w=0  となる。

という二つの条件を満たすかどうかということを考えてみる。

まず、(イ)という条件は、(9)式より自動的に満たすことは明らかである。そこで、(ロ)の条件について考えてみよう。
  いま、xyzwR として、 0= xv1+ yv2+ zv3+ wv4 (10)  であると仮定して、(8)式より xv1+ yv2+ zv3+ wv4 =Au  に注意すると、(10)式は 0= xv1+ yv2+ zv3+ wv4    0=Au    uKerA
したがって、(ロ)という条件が満たされるかどうかということは、
KerA={0 }
となるかどうかということと同じことである、といえる。すなわち、
KerA≠{0 }
ならば、(ロ)という条件は満たされない、ということが分かる。

 ところで、例題の場合、前半で見たように、

u1= 0 1 1 0  ,  u2= -1 -2 0 1  として、 KerA={ su1+ tu2 R4  |  s,tR  } ={ u= -t s-2t s t R4 | s,tR } (11)
がわかった、とすると、 {v1,v2,v3,v4}  は ImA の基底ではない、ことが分かる。それでは、ImA の基底はどうなるだろうか。
いま、
0= xv1+ yv2+ zv3+ wv4    uKerA (12)
であることを想起すると、 uKerA として、u1,u2KerA をとると、
Au1= v1 v2 v3 v4 0 1 1 0 = v2+ v3 Au2= v1 v2 v3 v4 -1 -2 0 1 = -v1 -2v2+ v4  すなわち、 v2+ v3 =0 -v1 -2v2+ v4 =0  という関係式が得られるから、そこで、 v3=- v2 v4= v1 +2v2
というように、v1,v2 を用いて、v3,v4 を表わせることが分かる。
xv1+ yv2+ zv3+ wv4 = xv1+ yv2+ z(-v2)+ w⁡(v1+ 2v2⁡) = (x+w)v1 + (y-z+2w)v2  すると、 α=x+w β=y-z+2w  として、 ImA={ αv1+ βv2 R3  | α,β R⁡} (13)
というように表わせることが分かる。

それでは、{v1,v2} は、ImA の基底になりうるだろうか。そのためには、

(イ) 勝手な元 vImA に対して
v= αv1+ βv2
   となるような実数 αβR が存在する
(ロ) αβR として
0= αv1+ βv2 α=β=0  となる。

という二つの条件を満たす必要がある。
 まず、(イ)という条件は、(13)式より自動的に満たすことは明らかである。そこで、(ロ)の条件について考えてみよう。
いま、αβR として
0= αv1+ βv2
となると仮定してみる。このとき、v3,v4 の項を付け加えると
0= αv1+ βv2+ 0v3+ 0v4  となるが、(12)式より α β 0 0 KerA
となることが分かる。
そこで、KerA の元のうち、ベクトルの第3成分と第4成分 が共に 0 となるような元を考えることになるが、(11)式より s=t=0 となるもの、すなわち、0 しか存在しないことが分かるから
α β 0 0 =0  よって、 α=β=0
となることが分かる。

したがって、今度の場合、(ロ)という条件も満たされることが分かるから、ImA の基底として、{v1,v2} が取れることになる。

ところで、皆さんの中には、どうして v3,v4 を、v1,v2 で表わすのか、と疑問に思った人がいるかもしれない。もちろん、
v3=- v2 v1= 2v2 -v4
として、{v1,v3} を消去することも可能だが、
u1= 1 0  ,  u2= 0 1 KerA
という形に注目すると、{v3,v4} から線型独立であることの判別が容易に分かる。

このように、KerA の基底が分かったとすると、その情報を用いて ImA の基底を求めることができる。そこで、注意して欲しいことは、こうして出来たベクトルは行列 A の成分をそのまま持ってきたので,問題によっては数が大きな場合もある、ということ。

例えば、例題では、ImA の基底として
v1= 3 1 2  ,  v2= -1 1 0
が求まりました。「像の基底を求めよ」という問題なら別にこのままで良いが、求めた基底を「正規直交化」せよ、となると少々厄介です。
そこで、v1,v2 を並べて、列のみの基本変形を行なってみます。
3-1 11 20 c1+c2 c11/2 1-1 11 10 3 1 2 =2 1 1 1 - -1 1 0 1-1 11 10 c1+c2 0-1 21 10 3 1 2 =2 0 2 1 -3 -1 1 0  すると、 v1' = 1 1 1  ,  v1" = 0 2 1  として、
{v1,v2} という ImA の基底は {v1',v2} や {v1",v2} というよりコンパクトな基底も取れることが分かる。