弁証法における「矛盾」とは

世界に存在するすべての事物または過程は二つの対立する側面(要因)をもっており、これら二つの要因は、一方では、たがいに他を予想しあい、制約しあっているが、しかし同時に、他を否定しあい、排斥しあっているという関係にある。一つの事物または過程の二つの要因のあいだのこういう相互依存と相互否定の関係を、矛盾の関係という。すべての事物または過程は対立する二つの要因の統一―対立物の統一―である。今まで見てきた商品は、使用価値と価値という二つの対立する側面(要因)の統一であり、使用価値と価値との矛盾をふくんでいる。そしてそれらは、それぞれに固有な特殊な矛盾(対立物の相互依存と相互否定の特殊な仕方)をもっている。そしてそれぞれに固有な特殊なこの矛盾は、そのものをそのものにし、そのものを他のものから区別する、そのものの質である。特殊な矛盾は、事物または過程そのものたらしめる質であるから、その事物または過程のはじめから終わりまで存在する。新しい事物または過程が発生するとは、古い事物または過程を構成している対立的要因が新しい事物または過程を構成している対立要因に席をゆずり、古い特殊的な矛盾のかわりに新しい特殊的な矛盾があらわれるということである。

事物または過程に内在する特殊的な矛盾は、その事物または過程の発展の原動力であり、その発展の形態を決める。だから質的に異なった矛盾は、質的に異なった仕方によってのみ、解決することができる。それぞれの事物または過程が、特殊な矛盾をもっているとは、それぞれの事物または過程が、異なる対立物(対立する要因)をもっており、対立物が異なるから対立物の相互作用も異なっているということである。だからそれぞれの事物や過程の特殊な矛盾をつかむためには、対立物の双方の側面(要因)がどんなものであるか、その特殊性はなんであるかを知り、それらがどういう特殊な形態の相互作用をするかを知らなければならない。

主要な矛盾であっても、副次的な矛盾であっても、どの矛盾の二つの要因も、不均等に発展する。ときには両側面の力がちょうど同じ強さであるように見えても、それは一時的な事情でしかなく、基本的には、両側面の力は等しくない。二つの側面のうち、かならず一つの側面が主要な側面であり、他の側面は副次的な側面である。主要な側面とは、矛盾において主導的な役割を果たしている側面のことである。事物または過程の性質は、主として、支配的な地位にある矛盾の主要な側面によってきまる。しかし二つの側面は不均等に発展する。そのため両者の地位がかわって、主要でない側面が主要な側面となり主要な側面が主要でない側面になると、事物の性質がかわって、事物は他の事物となる。